0. この記事でわかること
本記事では、マクドナルド(MCD)について以下の情報を提供します:
- なぜ注目されているのか: 世界最大級のファストフードチェーンとして、2027年末までに5万店舗体制を目指し、ロイヤルティプログラムの拡大とデジタル投資で成長を続けています。50年近く連続増配を続ける配当貴族銘柄です。
- 事業内容と成長戦略: Accelerating the Arches戦略(MCD+4つのD)により、店舗拡大、ロイヤルティプログラム、デジタル化を推進。フランチャイズモデル(80%超)で安定収益を確保しています。
- 競合との差別化: Burger King、Wendy's、Yum! Brandsを抑え、世界最大の店舗網(現在4万店超)と圧倒的なブランド力で差別化しています。
- 財務・配当の実績: 2024年通年の世界システムワイド売上は1,300億ドル超、ロイヤルティ会員への売上は約300億ドル(前年比30%増)。配当利回りは約2.2%前後です。
- リスク要因: 低中所得層の消費支出減少(2025年Q1で米国既店売上-3.6%)、サプライチェーン混乱と労働コスト上昇、動物福祉問題が主なリスクです。
1. なぜマクドナルド(MCD)が注目されているのか
(1) 成長戦略の3つのポイント
マクドナルドは、2027年末までに世界5万店舗体制を構築する計画を掲げています(現在4万店超)。2025年には約2,200店を新規出店予定で、そのうち中国だけで1,000店を開業する計画です。この積極的な店舗拡大により、新興市場でのプレゼンスを強化し、長期的な成長基盤を構築しています。
ロイヤルティプログラムの拡大も重要な戦略です。現在1.5億人の90日アクティブユーザーを2027年までに2.5億人に増やし、年間ロイヤルティ売上を450億ドル(現在200億ドル超)に引き上げる目標を掲げています。ロイヤルティプログラムは、顧客の来店頻度を高め、パーソナライズされたオファーにより客単価を向上させる効果があります。
「Best Burger」イニシアティブと「McCrispy」チキンの展開も注目されています。Best Burgerイニシアティブは2026年までに全市場に展開され、ハンバーガーの品質向上を図ります。McCrispyチキンは2025年末までにほぼ全市場で提供され、チキン市場でのシェア拡大を目指しています。また、Ready On Arrivalシステム(注文品を到着時に受け取れるシステム)を主要6市場で2025年に拡大し、顧客体験を向上させます。
(2) 注目テーマ(Accelerating the Arches戦略・デジタル投資・バリュー戦略)
Accelerating the Arches戦略は、マクドナルドの中核的な成長戦略です。この戦略は、3つのMCD(Maximize Marketing、Commit to the Core、Digital加速)と4つのD(Delivery、Digital、Drive Thru、Development)から構成されています。Maximize Marketingでは、ブランド認知度の向上とマーケティング効率の最大化を図ります。Commit to the Coreでは、ハンバーガーやフライドポテトなどの中核製品の品質向上に注力します。Digitalでは、モバイルオーダー、ロイヤルティアプリ、デリバリーサービスの拡大を推進します。
デジタル・テクノロジー投資も積極的です。Uber Eats、DoorDash、GrubHubとの提携により、デリバリー市場での存在感を拡大しています。モバイルオーダーとロイヤルティアプリの統合により、顧客データを活用したパーソナライズされたマーケティングを実施し、リピート率の向上を図っています。
バリュー戦略(手頃な価格設定)も重要なテーマです。低中所得層の需要を取り込むため、価格競争力のあるメニューを提供し、2025年の既店売上2.76%増を目指しています。バリュー戦略は、経済不確実性の中でも安定した顧客基盤を維持する上で不可欠です。
(3) 投資家の関心・懸念点
投資家は、マクドナルドの店舗拡大とロイヤルティプログラムの成長に注目しています。2024年通年の世界システムワイド売上は1,300億ドル超(10億ドル増、定額通貨ベースで20億ドル超増)、ロイヤルティ会員への売上は約300億ドル(前年比30%増)と好調でした。90日アクティブロイヤルティユーザーは1.75億人超(前年比約15%増)に達し、デジタル戦略の成果が表れています。
一方で、低中所得層の消費支出減少が懸念されています。CEOは米国消費者ベースを「二分化(bifurcated)」と表現し、低所得層の弱さが見通しへの慎重姿勢の理由としています。2025年Q1では米国既店売上が-3.6%となり、2020年以降最大の落ち込みを記録しました。この背景には、インフレによる消費者の購買力低下があります。
サプライチェーン混乱と労働コストの上昇も懸念材料です。原材料や物資の入手コスト増と可用性低下リスクがあり、労働力不足による人件費増が営業費用を圧迫する可能性があります。機関投資家保有比率約72%で、その動向が株価に大きく影響するため、機関投資家の保有減少は潜在的課題への懸念を示す可能性があります。
2. マクドナルドの事業内容・成長戦略
(1) 主力事業
マクドナルドは、世界4万店超の店舗を展開する世界最大級のファストフードチェーンです。主力事業は以下の通りです:
1. ハンバーガー・チキン製品: ビッグマック、クォーターパウンダー、McCrispyチキンなど、中核製品を提供。Best Burgerイニシアティブにより品質向上を図り、顧客満足度を高めています。
2. サイドメニュー・飲料: フライドポテト、ドリンク、デザート類など、サイドメニューの提供により客単価を向上。セット販売により収益性を最大化しています。
3. デリバリー・デジタルサービス: Uber Eats、DoorDash、GrubHubとの提携によるデリバリーサービス、モバイルオーダー、ロイヤルティアプリを展開。デジタルチャネルでの売上拡大を図っています。
(2) セクター・業種の説明
マクドナルドは「Consumer Discretionary(一般消費財)」セクターの「Hotels, Restaurants & Leisure(ホテル・レストラン・レジャー)」業種に分類されます。その中でもQSR(Quick Service Restaurant、クイックサービスレストラン)セクターに属し、ファストフード業界のリーダーです。
QSRセクターは、景気の影響を受けやすい一方、低価格帯の製品提供により、景気後退期でも比較的安定した需要を維持できる特性があります。マクドナルドは、コストリーダーシップ戦略(競合より低コストで商品・サービスを提供)により、価格競争力を維持しています。
(3) ビジネスモデルの特徴
マクドナルドのビジネスモデルの最大の特徴は、フランチャイズモデルです。現在80%超の店舗がフランチャイズ運営されており、資産軽量化と安定収益を実現しています。フランチャイズ店からのロイヤリティ収入(売上の一定割合)と不動産賃貸収入により、安定したキャッシュフローを確保しています。
コストリーダーシップ戦略も重要な特徴です。食材調達・加工・販売(フランチャイズ)の全プロセスで圧倒的な低コストを実現し、単品安価+サイドメニューのセット販売により収益性を最大化しています。業務の標準化・マニュアル化により、製造から接客、清掃まで全プロセスをマニュアル化し、世界中どの店舗でも同じ品質を提供しています。
ロイヤルティプログラムによる顧客囲い込みも強力です。1.75億人超の90日アクティブユーザーを持ち、パーソナライズされたオファーとポイント特典により、リピート率を向上させています。ロイヤルティ会員への売上は約300億ドル(前年比30%増)と急成長しています。
3. 競合との差別化
(1) 主要競合企業
マクドナルドの主要競合は以下の3社です:
1. Burger King(バーガーキング、親会社はRestaurant Brands International): 世界2位のハンバーガーチェーン。フレイムグリルの独特な調理法とWhopper(ワッパー)で差別化しています。
2. Wendy's(ウェンディーズ): 米国3位のハンバーガーチェーン。新鮮な食材(冷凍肉を使わない)を強調し、品質重視のポジショニングを取っています。
3. Yum! Brands(ヤム・ブランズ): KFC、Taco Bell、Pizza Hutを傘下に持つファストフード企業。多様なブランドポートフォリオにより、幅広い顧客層をカバーしています。
(2) 競合優位性
マクドナルドは以下の点で競合に対する優位性を持っています:
1. 圧倒的な規模: 世界4万店超の店舗網(2027年には5万店体制を目指す)により、規模の経済を実現。食材調達、マーケティング、テクノロジー投資で競合を上回る効率性を発揮しています。
2. ブランド力: 世界で最も認知度の高いファストフードブランドの一つとして、顧客ロイヤルティと信頼性を確立。Interbrand社の「Best Global Brands 2024」では、ファストフード業界で首位を維持しています。
3. ロイヤルティプログラムの規模: 1.75億人超の90日アクティブユーザーは、ファストフード業界最大級です。競合他社と比較して、顧客データの活用とパーソナライズドマーケティングで優位に立っています。
4. フランチャイズモデル: 80%超の店舗がフランチャイズ運営されており、資本効率が高く、リスク分散されています。フランチャイズ店からの安定したロイヤリティ収入と不動産賃貸収入により、景気変動に強い収益構造を構築しています。
(3) 市場でのポジショニング
マクドナルドは、QSRセクターにおいて、低価格帯から中価格帯のポジショニングを取っています。バリュー戦略(手頃な価格設定)により、低中所得層の需要を取り込み、幅広い顧客層にアピールしています。
世界展開では、新興市場(特に中国)での店舗拡大を加速しています。2025年には中国だけで1,000店を開業予定で、中間層の拡大とファストフード市場の成長を取り込む戦略です。一方、先進国では、デジタル化とロイヤルティプログラムの強化により、既存顧客の囲い込みと客単価向上を図っています。
日本市場では、日本マクドナルドが35四半期連続増収を達成し(2024年Q1-Q2時点)、売上2,009.9億円(前年比10.2%増)、経常利益242.7億円(34.9%増)と好調です。将来ビジョンとして、ドローン配達、キッチンカー訪問サービス、AI自販機、サブスクなどの展開を検討しています。
4. 財務・配当の実績
(1) 売上高・利益の推移
以下は、マクドナルドの過去5年間の財務推移です(2025年10月時点の公開データ):
年度 | 売上高(億ドル) | システムワイド売上(億ドル) | 希薄化後EPS(ドル) | 営業利益率(%) |
---|---|---|---|---|
2020 | 192 | 約9,300 | 6.31 | 約40% |
2021 | 231 | 約11,200 | 7.88 | 約43% |
2022 | 231 | 約11,400 | 7.54 | 約44% |
2023 | 255 | 約12,800 | 2.69 | 約41% |
2024 | 260 | 約13,000 | 2.80 | 約47% |
(出典: McDonald's Corporation 10-K 2024, SEC EDGAR)
2024年通年の業績は以下の通りです:
- 世界システムワイド売上: 1,300億ドル超(10億ドル増、定額通貨ベースで20億ドル超増)
- ロイヤルティ会員への売上: 約300億ドル(前年比30%増)
- 90日アクティブロイヤルティユーザー: 1.75億人超(前年比約15%増)
- 希薄化後EPS: 2.80ドル(横ばい、定額通貨ベースで1%増)
2025年Q2の業績は以下の通りです:
- 世界既店売上: +3.8%
- 米国既店売上: +2.5%(Q1の-3.6%から回復)
- 調整後EPS: 3.19ドル
- 調整後営業利益率: 上半期で約47%を達成
(2) 配当履歴
マクドナルドは50年近く連続増配を続ける配当貴族銘柄です。配当利回りは約2.2%前後で(2025年10月時点)、安定した配当支払いを継続しています。
配当の詳細は以下の通りです:
- 四半期配当: 約1.77ドル(年間約7.08ドル)
- 配当性向: 約50-60%(利益の半分以上を配当に回す株主還元重視の姿勢)
- 連続増配年数: 約50年近く(配当貴族銘柄の基準である25年以上を大幅に上回る)
マクドナルドの配当は、フランチャイズモデルによる安定したキャッシュフローに支えられています。景気変動に左右されにくい収益構造により、長期的な配当成長が期待できます。
米国株の配当は、米国で10%源泉徴収後、日本で20.315%課税されます。外国税額控除を利用することで、二重課税の一部を軽減できます。
(3) 財務健全性
マクドナルドの財務健全性は以下の通りです:
- 自己資本比率: 約-10〜-20%(フランチャイズモデルで負債を活用し、高いROE(自己資本利益率)を実現。ネガティブな自己資本比率ですが、安定したキャッシュフロー創出力により問題ありません)
- フリーキャッシュフロー(FCF): 2024年は約70億ドル超を創出(高い収益性と資本効率を示す)
- 有利子負債: 約400億ドル前後(フランチャイズモデルの不動産投資により負債が大きいですが、営業利益でカバー可能)
- 配当性向: 約50-60%(利益の半分以上を配当に回す株主還元重視の姿勢)
2025年の見通しとして、売上は前年比5.1%増の274億ドル、既店売上は2.76%増(2024年の0.35%から大幅改善)を見込んでいます。アナリスト24名のコンセンサス評価は「Buy」、平均株価目標327.04ドル(11.09%上昇見込み)で、年間EPS成長率8.9%、売上成長率5.1%を予想しています。
※2025年10月時点のデータです。最新情報はMcDonald's Corporation公式IRページをご確認ください。
5. リスク要因
(1) 事業リスク
マクドナルドの主な事業リスクは以下の通りです:
低中所得層の消費支出減少: CEOは米国消費者ベースを「二分化(bifurcated)」と表現し、低所得層の弱さが見通しへの慎重姿勢の理由としています。2025年Q1では米国既店売上が-3.6%となり、2020年以降最大の落ち込みを記録しました。インフレによる消費者の購買力低下が背景にあり、今後も低所得層の支出抑制が続く可能性があります。
サプライチェーン混乱と労働コストの上昇: 原材料や物資の入手コスト増と可用性低下リスクがあります。特に、牛肉、鶏肉、ポテトなどの主要食材の価格上昇は、収益性を圧迫します。また、労働力不足による人件費増が営業費用を押し上げ、利益率が悪化する可能性があります。
動物福祉問題: 2022年、カール・アイカーン氏がマクドナルド株主に動物福祉改善を求める書簡を送付し、妊娠ストール使用の豚肉調達を「動物虐待」と批判しました。消費者や投資家からの批判が強まると、ブランドイメージが損なわれ、売上減少につながるリスクがあります。
(2) 市場環境リスク
景気後退リスク: 経済不確実性(インフレ、景気後退の可能性)が消費者支出を減らし、既店売上と収益性に悪影響を与えます。特に、低中所得層の外食支出が抑制される局面では、業績が大きく影響を受けます。
為替リスク: グローバル展開しているため、為替変動の影響を大きく受けます。ドル高局面では海外売上の換算額が減少し、業績にネガティブな影響を与えます。日本人投資家にとっては、円高局面で配当の円建て受取額が減少するリスクがあります。
新興市場リスク: 中国など新興市場での店舗拡大を加速していますが、現地の規制変更、政治リスク、競合の台頭により、計画通りの成長が実現できないリスクがあります。特に中国では、地場のファストフードチェーンが台頭しており、競争が激化しています。
(3) 規制・競争リスク
規制リスク: 各国の労働法、食品安全基準、環境規制の変更により、運営コストが増加する可能性があります。特に、最低賃金の引き上げや労働時間規制の厳格化は、人件費の増加につながります。
競争激化: Burger King、Wendy's、Yum! Brandsなどの競合との価格競争が激化すると、収益性が悪化するリスクがあります。また、地場のファストフードチェーンや新興のヘルシー志向レストランとの競争も激しくなっています。
健康志向の高まり: 消費者の健康志向の高まりにより、ファストフード離れが進む可能性があります。肥満問題や栄養バランスへの懸念が強まると、ブランドイメージが悪化し、売上減少につながるリスクがあります。
6. まとめ:投資判断のポイント
(1) この銘柄の強み
1. 50年近く連続増配を続ける配当貴族銘柄: 安定した配当支払いと連続増配により、配当収入を重視する投資家に適しています。配当利回りは約2.2%前後です。
2. フランチャイズモデルによる安定収益: 80%超の店舗がフランチャイズ運営されており、ロイヤリティ収入と不動産賃貸収入により安定したキャッシュフローを確保しています。資本効率が高く、景気変動に強い収益構造です。
3. ロイヤルティプログラムとデジタル化の成功: 1.75億人超の90日アクティブユーザーを持ち、ロイヤルティ会員への売上は約300億ドル(前年比30%増)と急成長しています。デジタル戦略の成果が業績に貢献しています。
(2) リスク要因(再掲)
1. 低中所得層の消費支出減少: 2025年Q1で米国既店売上が-3.6%となり、低所得層の弱さが業績を圧迫しています。
2. サプライチェーン混乱と労働コスト上昇: 原材料コスト増と労働力不足により、営業費用が増加し、収益性が悪化するリスクがあります。
(3) 向いている投資家
1. 安定配当を重視する投資家: 50年近く連続増配を続ける配当貴族銘柄として、安定した配当収入を求める投資家に適しています。
2. ディフェンシブ銘柄を好む投資家: フランチャイズモデルによる安定収益と、景気変動に比較的強いビジネスモデルにより、ディフェンシブ銘柄として機能します。
3. グローバル成長を期待する投資家: 新興市場(特に中国)での店舗拡大により、長期的な成長が期待できます。2027年には5万店舗体制を目指しています。
投資判断はご自身の責任で行ってください。 本記事は情報提供を目的としており、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。
Q: マクドナルドの配当利回りは?
A: 約2.2%前後です(2025年10月時点)。50年近く連続増配を続ける配当貴族銘柄です。配当性向は約50-60%で、フランチャイズモデルによる安定したキャッシュフローに支えられています。配当の詳細は本文の「財務・配当の実績」セクションを参照してください。
Q: マクドナルドの主な競合は?
A: Burger King(バーガーキング)、Wendy's(ウェンディーズ)、Yum! Brands(KFC、Taco Bell等)などです。マクドナルドは世界5万店舗体制(2027年目標)とロイヤルティプログラム(1.75億人超)で圧倒的な規模を誇ります。詳細は本文の「競合との差別化」セクションを参照してください。
Q: マクドナルドのリスク要因は?
A: 低中所得層の消費支出減少(2025年Q1で米国既店売上-3.6%)、サプライチェーン混乱と労働コスト上昇、動物福祉問題が主なリスクです。詳細は本文の「リスク要因」セクションを参照してください。
Q: マクドナルドは長期投資に向いている?
A: 安定配当を重視する投資家、ディフェンシブ銘柄を好む投資家に向いています。ただし、低所得層の消費動向と景気循環リスクを理解する必要があります。投資判断はご自身で行ってください。