0. この記事でわかること
本記事では、スターバックス(SBUX)について以下の情報を提供します:
- なぜ注目されているのか: 新CEO主導の「Back to Starbucks」戦略による原点回帰、中国市場での展開継続、30億ドルの効率化プログラム
- 事業内容と成長戦略: 世界最大のプレミアムコーヒーチェーン、サードプレイス戦略によるブランド構築、モバイルオーダー・リワードプログラムでの顧客囲い込み
- 競合との差別化: Dunkin' DonutsやMcDonald's McCaféに対するプレミアムブランド、中国でのLuckin Coffeeとの競争
- 財務・配当の実績: 連続増配10年以上の配当成長株、配当利回り2%台だが配当性向88%と高水準
- リスク要因: 既存店売上6四半期連続減少、労働組合との対立激化、中国市場での競争激化
1. なぜスターバックス(SBUX)が注目されているのか
(1) 成長戦略の3つのポイント
スターバックスは、2024年9月に就任した新CEO Brian Niccolの主導で「Back to Starbucks」戦略を推進しています。この戦略は以下の3つの柱で構成されています。
① 原点回帰による顧客体験の再構築
最高品質のコーヒーを熟練バリスタが手作りする「コーヒーハウス体験」に集中し、顧客サービス向上への史上最大の投資「Green Apron Service」モデルを導入しています。このモデルは、スタッフ配置の最適化や注文順序制御により、サービス速度と売上の向上を目指しています。
② 中国市場での大規模展開継続
2025年までに中国で9,000店舗体制を目指し、中国事業の株式売却を検討しつつも過半数の株式は保持する方針です。2025年Q3決算では、中国の同店売上が1年半ぶりにプラス(+2%)となり、取引件数も+6%と回復の兆しを見せています。
③ 効率化プログラムの実施
30億ドルの効率化プログラムを実施しており、うち20億ドルは店外のCOGS(売上原価)削減に充てられています。これにより投資と株主還元の原資を確保する計画です。
(2) 注目テーマ(サードプレイス再構築・デジタル化・中国展開)
スターバックスの投資家が注目するテーマは以下の3つです。
サードプレイス体験の再構築
自宅や職場に続く「第三の居場所」を提供するサードプレイス戦略は、スターバックスのブランド戦略の核です。広告を一切出さず、店舗体験をベースとしたブランディングを展開しています。
デジタル・モバイルオーダー強化
モバイルオーダーとリワードプログラムによる顧客囲い込みを進めており、デジタル統合はスターバックスの成長戦略の重要な要素となっています。日本ではLINE提携によるデジタル強化も進めています。
サステナビリティとESG
ESG評価の向上に注力していますが、労働組合との対立激化により企業評判とESG評価に悪影響が出ている点が懸念されています。
(3) 投資家の関心・懸念点
投資家は、スターバックスのブランド力と配当成長株としての魅力に注目する一方、以下の懸念を抱いています。
- 既存店売上の6四半期連続減少(グローバル同店売上-2%、取引件数-3%)
- 労働組合との対立激化(2022年以降100件以上のUnfair Labor Practice苦情、3年経過しても労働契約未締結)
- 高配当性向(88%)と負債倍増がターンアラウンドを困難化
アナリストコンセンサスは「Buy」評価が多数ですが、目標株価$100.21は短期的な株価低迷を示唆しています。
2. スターバックスの事業内容・成長戦略
(1) 主力事業
スターバックスは世界最大のコーヒーチェーンであり、2024年9月時点で世界40,199店舗を展開しています。主力事業は以下の3つです。
① 店舗事業(Company-operated Stores)
米国・中国を中心に直営店舗を運営し、プレミアムコーヒー、フード、飲料を提供しています。店舗体験を重視したブランディングが特徴です。
② ライセンス事業(Licensed Stores)
国際市場や空港、大学などでライセンス店舗を展開し、ブランドのグローバル展開を加速しています。
③ 消費財事業(CPG, Foodservice and Other)
スーパーマーケット向けのパッケージコーヒーや、業務用コーヒーの販売も行っています。
(2) セクター・業種の説明
スターバックスは「消費者裁量(Consumer Discretionary)」セクターの「ホテル・レストラン・レジャー(Hotels, Restaurants & Leisure)」業種に分類されます。
消費者裁量セクターは、景気動向に敏感なセクターです。景気が良い時には消費が拡大しますが、景気後退期には消費者の節約志向が強まり、売上が減少する傾向があります。スターバックスはプレミアム価格帯のコーヒーを提供しているため、経済環境の変化による影響を受けやすい特性があります。
(3) ビジネスモデルの特徴
スターバックスのビジネスモデルの特徴は、以下の3点です。
① サードプレイス戦略
自宅や職場に続く第三の居場所を提供することで、顧客がプレミアム価格を支払う高品質体験を提供しています。
② モバイルオーダー・リワードプログラム
リワード会員数を増やし、顧客ロイヤルティを高めることで、リピート購入を促進しています。
③ グローバル展開
米国以外の市場、特に中国市場での成長余地が大きく、海外売上が米国並みになれば売上1.5倍の余地があると言われています。
3. 競合との差別化
(1) 主要競合企業
スターバックスの主要競合企業は以下の3社です。
① Dunkin' Donuts
米国を中心に展開するコーヒーチェーン。スターバックスに比べて低価格帯で、朝食メニューが充実しています。
② McDonald's McCafé
マクドナルドが展開するコーヒーブランド。ファストフードチェーンの強みを活かし、低価格で提供しています。
③ Luckin Coffee(中国)
中国で急成長しているコーヒーチェーン。店舗数でスターバックスを上回り、低価格とモバイルオーダー中心のビジネスモデルで競争しています。
(2) 競合優位性
スターバックスは以下の3つの優位性で競合と差別化しています。
① プレミアムブランド
広告を一切出さず、店舗体験をベースとしたブランディングにより、プレミアムブランドとしての地位を確立しています。
② サードプレイス戦略
居心地の良い空間と熟練バリスタによる高品質コーヒーの提供により、顧客がプレミアム価格を支払う正当性を提供しています。
③ モバイルオーダー・リワードプログラム
デジタル統合により顧客ロイヤルティを高め、リピート購入を促進する仕組みを構築しています。
(3) 市場でのポジショニング
スターバックスは、プレミアムコーヒー市場でのリーダー的地位を確立しています。一方、中国市場ではLuckin Coffeeとの競争が激化しており、価格圧力により成長が相殺されている状況です。
4. 財務・配当の実績
(1) 売上高・利益の推移
スターバックスの過去5年間の財務実績は以下の通りです(2025年Q3決算時点)。
年度 | 売上高(億ドル) | 純利益(億ドル) | 備考 |
---|---|---|---|
2020 | 232.2 | 9.3 | パンデミック影響 |
2021 | 296.1 | 42.0 | 回復局面 |
2022 | 329.8 | 31.3 | インフレ影響 |
2023 | 359.8 | 40.4 | 堅調な成長 |
2024 | 364.2 | 36.0 | 成長鈍化 |
(出典: Starbucks Corporation 10-K 2024, SEC EDGAR)
2025年Q3決算では、売上$9.5B(+4%)、純利益$558.3M(EPS $0.49、前年$0.93から減少)と、売上は成長したものの利益が大幅に減少しました。
グローバル同店売上は-2%(予想-1.3%より悪化)、取引件数-3%、客単価+1%と、顧客離れが顕在化しています。
(2) 配当履歴
スターバックスは連続増配10年以上の実績を持つ配当成長株です。
- 配当利回り: 約2.0-2.3%(2025年10月時点)
- 配当性向: 88%(2025年時点)
- 四半期配当: $0.61/株(年間$2.44)
配当性向が88%と高水準であることから、減配リスクに注意が必要です。業績が悪化した場合、配当を維持することが困難になる可能性があります。
(3) 財務健全性
スターバックスの財務健全性は以下の通りです。
- 有利子負債: パンデミック前比で倍増しており、財務レバレッジが高まっています
- フリーキャッシュフロー: 30億ドルの効率化プログラムにより改善を目指していますが、高配当性向と負債返済の両立が課題です
- 自己資本比率: 詳細は10-Kレポートをご確認ください
(出典: Starbucks Corporation 10-K 2024, SEC EDGAR)
※2025年10月時点のデータです。最新情報はStarbucks Corporation公式IRページをご確認ください。
5. リスク要因
(1) 事業リスク
既存店売上の6四半期連続減少
グローバル同店売上が-2%(米国-2%、中国は+2%も厳しい競争環境)、取引件数-3%と顧客離れが顕在化しています。過度に複雑化したメニューの簡素化と顧客体験の再構築が急務です。
原材料価格高騰
コーヒー豆価格の高騰により、売上原価が増加しています。価格転嫁による顧客離れと利益率低下のバランスが課題です。
労働組合との対立激化
2022年以降100件以上のUnfair Labor Practice苦情が発生し、3年経過しても労働契約が未締結の状況です。ストライキや店舗閉鎖抗議が発生しており、企業評判とESG評価に悪影響を及ぼしています。
(2) 市場環境リスク
景気後退リスク
消費者裁量セクターに属するため、景気後退期には消費者の節約志向が強まり、売上が減少する可能性があります。
為替リスク
日本人投資家にとって、米ドル/円の為替レートの変動が投資収益に大きく影響します。円高局面では、ドル建て株価が上昇しても円換算で損失が出る可能性があります。
金利上昇リスク
有利子負債が増加しているため、金利上昇により金融コストが増加し、利益を圧迫する可能性があります。
(3) 規制・競争リスク
中国市場での競争激化
中国ではLuckin Coffeeとの競争が激化しており、価格圧力により成長が相殺されています。中国事業の株式売却を検討していますが、過半数の株式は保持する方針です。
労働法規制の強化
労働組合の組織化が進んでおり、労働法規制の強化により人件費が増加する可能性があります。
環境規制の強化
サステナビリティへの取り組みが求められる中、環境規制の強化により追加コストが発生する可能性があります。
6. まとめ:投資判断のポイント
(1) この銘柄の強み
スターバックスの強みは以下の3点です。
- 世界最大のプレミアムコーヒーチェーン: グローバルで40,199店舗を展開し、プレミアムブランドとしての地位を確立
- サードプレイス戦略: 広告を一切出さず、店舗体験をベースとしたブランディングで差別化
- 配当成長株: 連続増配10年以上の実績、配当利回り2%台
(2) リスク要因(再掲)
一方、以下のリスクに注意が必要です。
- 既存店売上6四半期連続減少: 顧客離れが顕在化、ターンアラウンド戦略の成否が焦点
- 高配当性向(88%)と負債倍増: 減配リスクと財務健全性への懸念
(3) 向いている投資家
スターバックスは以下のような投資家に向いています。
- ブランド株を長期保有したい投資家: プレミアムブランドの価値を信じ、ターンアラウンドを待てる投資家
- 配当利回り2%台を求める投資家: 配当成長株として長期的な配当収入を期待する投資家
- 消費財セクターに投資したい投資家: 日常的に利用する企業への投資でブランド価値を実感したい投資家
※本記事は情報提供を目的としており、個別銘柄の推奨を行うものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
Q: スターバックスの配当利回りは?
A: 約2.0-2.3%程度です(2025年10月時点)。連続増配10年以上の実績がありますが、配当性向88%と高水準のため減配リスクに注意が必要です。詳細は配当履歴セクションをご確認ください。
Q: スターバックスの主な競合は?
A: Dunkin' Donuts、McDonald's McCafé、中国ではLuckin Coffeeなどが主要競合です。スターバックスはプレミアムブランド、サードプレイス戦略、モバイルオーダー・リワードプログラムで差別化を図っています。
Q: スターバックスのリスク要因は?
A: 既存店売上6四半期連続減少、労働組合との対立激化(100件以上のULP苦情)、高配当性向(88%)、中国市場の競争激化、原材料価格高騰などが主なリスクです。詳細は本文のリスク要因セクションを参照してください。
Q: スターバックスは長期投資に向いている?
A: 新CEO主導の「Back to Starbucks」戦略でターンアラウンドを目指していますが、既存店売上減少と労働問題が課題です。配当利回り2%台を求めブランド株を長期保有したい投資家に向いていますが、業績回復を見極める必要があります。投資判断はご自身でお願いします。
Q: スターバックスの「サードプレイス」戦略とは?
A: 自宅や職場に続く第三の居場所を提供するブランド戦略です。居心地の良い空間、熟練バリスタによる高品質コーヒー、顧客体験の提供により、プレミアム価格を正当化する差別化の核となっています。