0. この記事でわかること
本記事では、ヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)について以下の情報を提供します:
- なぜ注目されているのか: AI インフラへの積極投資、ジュニパーネットワークス買収によるネットワーキング統合、GreenLake as-a-Service モデルへの全面転換という3つの成長戦略。2025年第3四半期は過去最高の売上91億ドル(前年比18%増)を達成し、AI システム収益が前四半期比で2倍以上に増加
- 事業内容と成長戦略: サーバー、ストレージ、ネットワーク機器を主力に、ハイブリッドクラウド、エッジコンピューティング、AI向けインフラに注力。GreenLake プラットフォームは50以上のクラウドサービスを提供し、年間売上高7億7,500万ドル超、1,200社以上のビジネス顧客を獲得
- 競合との差別化: Dell Technologies、Cisco Systems、IBM、Lenovo等との競争において、NVIDIA との「AI Factory」ソリューション提携、ジュニパー買収による3年間で6億ドルのコストシナジー創出、ハイブリッドクラウドとネットワーキングの統合ソリューションで差別化
- 財務・配当の実績: 2025年第3四半期の売上91億ドル(前年比18%増)、Non-GAAP EPS 0.44ドル、配当利回り約3%前後で安定配当銘柄。FY2025通期の売上成長率ガイダンスを7-9%から14-16%に上方修正
- リスク要因: FY26のEPS予想2.20-2.40ドル(アナリスト予想を下回る)、ジュニパー+アルバ統合による短期的な売上圧力、2025年1月に米司法省から競争阻害の疑いで提訴されたジュニパー買収の不透明感、クラウドシフトによるオンプレミス需要減少
※2025年10月時点のデータです。最新情報はHewlett Packard Enterprise Co公式IRページをご確認ください。
1. なぜヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)が注目されているのか
(1) 成長戦略の3つのポイント
ヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)は、2015年にHP Inc.から分離独立したエンタープライズIT企業として、以下3つの成長戦略で注目を集めています:
1. AI インフラへの積極投資
HPEは、AI システム収益が前四半期比で2倍以上に増加し、エンタープライズAI顧客数が前年比で3倍に拡大しています。NVIDIA との「AI Factory」ソリューション提携により、2030年まで年率31.6%成長が見込まれる9,330億ドル規模の AI インフラ市場を攻略しています。AI システム売上は16億ドルに達し、企業のAI導入ニーズに応えています。
2. ジュニパー買収によるネットワーク事業強化
2025年7月にジュニパーネットワークスを買収し、Intelligent Edge セグメントの売上が前年比54%増の17億ドルに到達しました。3年間で6億ドルのコストシナジー創出を目標とし、ハイブリッドクラウドとネットワーキングの統合ソリューションを展開しています。この買収により、Dell Technologies やCisco Systems との競争において、統合されたネットワーキング・ソリューションを提供できる体制を整えています。
3. GreenLake as-a-Service モデルへの全面転換
2019年にCEOアントニオ・ネリ氏が2022年までに全製品をサービス化すると発表しました。現在50以上のクラウドサービスを提供し、年間売上高7億7,500万ドル超、1,200社以上のビジネス顧客を獲得しています。ハイブリッドクラウド売上が4四半期連続で前年比成長を記録し、従来の機器販売からサブスクリプション収益への転換が進んでいます。
(2) 注目テーマ(AIインフラ・ハイブリッドクラウド・ネットワーキング統合)
投資家が注目する主要テーマは以下の3つです:
- AI インフラ・エンタープライズAI: エンタープライズAI顧客数が前年比で3倍に拡大し、AI システム収益が前四半期比で2倍以上に増加。NVIDIA との提携により、企業のAI導入を加速
- ハイブリッドクラウド・GreenLake プラットフォーム: オンプレミスとクラウドを統合したGreenLake プラットフォームが、企業のデジタルトランスフォーメーションを支援。ハイブリッドクラウド売上が4四半期連続で前年比成長
- ネットワーキング統合(Juniper+Aruba): ジュニパー買収により、Aruba ブランドのネットワーキング製品との統合ソリューションを提供。Intelligent Edge セグメントの売上が前年比54%増
(3) 投資家の関心・懸念点
投資家の関心:
2025年第3四半期の売上は過去最高の91億ドル(前年比18%増)を記録し、5四半期連続の前年比売上成長を達成しました。サーバーセグメント売上は49億ドル(前年比16%増)、ハイブリッドクラウド売上は15億ドル(4四半期連続成長)と堅調です。FY2025通期の売上成長率ガイダンスを7-9%から14-16%に上方修正し、AI・ハイブリッドクラウド・ネットワーキングの3本柱で長期成長を追求しています。
投資家の懸念:
一方で、2025年10月のアナリストミーティングで発表されたFY26のEPS予想2.20-2.40ドル(アナリスト予想を下回る)、売上成長率5-10%(期待値以下)により、株価が10.9%急落しました。ジュニパー+アルバ統合による短期的な売上圧力、グロス利益率の29.4%への急低下、会計ミスによる在庫コスト処理の失敗(時価総額30億ドル減)など短期的な課題が山積しています。さらに、2025年4月にアクティビスト投資家エリオット・マネジメントが15億ドルの株式を取得し、経営効率化と株価改善を要求しています(2018年以降の株価上昇率48%はS&P500の135%を大幅に下回る)。
2. ヒューレット・パッカード・エンタープライズの事業内容・成長戦略
(1) 主力事業(サーバー・ストレージ・ネットワーキング)
HPEの主力事業は以下の3つのセグメントに分かれています:
1. コンピューティング(サーバー)
サーバーセグメントは売上49億ドル(2025年第3四半期、前年比16%増)を記録し、HPEの最大の収益源です。企業向けサーバー、HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)、AI向けサーバーを提供し、データセンターのインフラストラクチャを支えています。AI システム収益が前四半期比で2倍以上に増加し、エンタープライズAI顧客数が前年比で3倍に拡大していることから、AI需要の取り込みに成功しています。
2. ストレージ
ストレージセグメントは、企業のデータ保管・管理を担う重要な事業です。Alletra ストレージプラットフォームを中心に、ハイブリッドクラウド環境でのデータストレージソリューションを提供しています。GreenLake プラットフォームとの統合により、従量課金制でのストレージサービスを展開しています。
3. インテリジェントエッジ(ネットワーキング)
2025年7月のジュニパーネットワークス買収により、Intelligent Edge セグメントの売上が前年比54%増の17億ドルに到達しました。Aruba ブランドのネットワーキング製品とジュニパーの製品を統合し、企業のネットワークインフラを構築しています。エッジコンピューティング、SD-WAN(ソフトウェア定義ワイドエリアネットワーク)、セキュリティソリューションを提供しています。
(2) セクター・業種の説明(エンタープライズIT)
HPEは、セクターとして「Information Technology(情報技術)」、業種として「Technology Hardware, Storage & Peripherals(テクノロジーハードウェア、ストレージ、周辺機器)」に分類されます。
エンタープライズIT市場の特性:
エンタープライズIT市場は、大企業や政府機関向けのITインフラストラクチャ(サーバー、ストレージ、ネットワーキング)を提供する市場です。クラウドシフトが進む中、オンプレミス(自社データセンター)からパブリッククラウド(AWS、Azure、Google Cloud)への移行が進んでいます。一方で、セキュリティ、データ主権、レガシーシステムとの統合などの理由で、ハイブリッドクラウド(オンプレミスとクラウドの併用)を選択する企業も多く、HPEはこの市場を狙っています。
HP Inc.(HPQ)との違い:
HPEは2015年11月に旧HP社から企業向けハードウェア事業として分社化されました。HPEは法人向けエンタープライズIT(サーバー・ストレージ・ネットワーキング)に特化し、HP Inc.(HPQ)は個人向けPC・プリンター事業に特化しています。分社化の目的は、それぞれの事業の成長戦略を最適化し、株主価値を最大化することでした。
(3) ビジネスモデルの特徴(GreenLake as-a-Service)
HPEの最大の特徴は、GreenLake as-a-Service モデルです。これは、従来の機器販売(CapEx: 設備投資)から、サブスクリプション形式でのサービス提供(OpEx: 運用費用)への転換を意味します。
GreenLake プラットフォームの特徴:
- 50以上のクラウドサービス: コンピューティング、ストレージ、ネットワーキング、AI、HPC など、幅広いサービスを提供
- 従量課金制: 使った分だけ支払う従量課金制により、企業の初期投資を削減
- オンプレミスとクラウドの統合: オンプレミスのデータセンターにクラウドのような柔軟性を提供
- 年間売上高7億7,500万ドル超: 1,200社以上のビジネス顧客を獲得し、ハイブリッドクラウド売上が4四半期連続で前年比成長
as-a-Service モデルのメリット:
- 顧客にとって: 初期投資が不要、需要に応じたスケーリングが可能、最新技術への迅速なアクセス
- HPEにとって: 安定した継続収益、顧客ロックイン(長期契約)、製品ライフサイクル全体での収益化
2019年にCEOアントニオ・ネリ氏が2022年までに全製品をサービス化すると発表し、現在もこの戦略を推進しています。
3. 競合との差別化
(1) 主要競合企業(Dell・Cisco・IBM・Lenovo)
HPEの主要競合企業は以下の4社です:
1. Dell Technologies(DELL)
エンタープライズIT市場でHPEと並ぶ最大のライバルです。サーバー、ストレージ、ネットワーキングの全領域で競合しています。Dell は EMC を2016年に買収し、ストレージ市場でのシェアを拡大しました。また、VMware との提携により、仮想化・クラウドインフラでの優位性を持っています。
2. Cisco Systems(CSCO)
ネットワーキング市場で圧倒的なシェアを持つ企業です。HPEのAruba ブランド(ジュニパー買収後はジュニパーも含む)と直接競合しています。Cisco は SD-WAN、セキュリティ、コラボレーション(Webex)など、幅広い製品ポートフォリオを持っています。
3. IBM(IBM)
エンタープライズIT市場の老舗企業です。ハイブリッドクラウド(Red Hat OpenShift)、AI(Watson)、メインフレームなどの領域で競合しています。IBM は2021年にインフラサービス事業(Kyndryl)をスピンオフし、ハイブリッドクラウドとAIに注力しています。
4. Lenovo
中国企業で、2014年にIBMのx86サーバー事業を買収し、エンタープライズサーバー市場に参入しました。価格競争力を武器に、アジア・太平洋地域でのシェアを拡大しています。
(2) 競合優位性(ハイブリッドクラウド・AI対応・Juniper買収)
HPEの競合優位性は以下の3点です:
1. ハイブリッドクラウド対応(GreenLake プラットフォーム)
GreenLake プラットフォームは、オンプレミスとクラウドを統合したハイブリッドクラウドソリューションを提供し、Dell や IBM との差別化を図っています。50以上のクラウドサービス、年間売上高7億7,500万ドル超、1,200社以上のビジネス顧客を獲得し、ハイブリッドクラウド売上が4四半期連続で前年比成長しています。企業がクラウドシフトする際の移行期間において、オンプレミスとクラウドを併用する需要を取り込んでいます。
2. AI対応(NVIDIA との「AI Factory」ソリューション提携)
NVIDIA との「AI Factory」ソリューション提携により、AI インフラ市場(2030年まで年率31.6%成長、9,330億ドル規模)を攻略しています。AI システム収益が前四半期比で2倍以上に増加し、エンタープライズAI顧客数が前年比で3倍に拡大しています。Dell や IBM もAI市場に注力していますが、NVIDIA との緊密な提携はHPEの強みです。
3. Juniper買収によるネットワーキング統合
2025年7月にジュニパーネットワークスを買収し、Intelligent Edge セグメントの売上が前年比54%増の17億ドルに到達しました。3年間で6億ドルのコストシナジー創出を目標とし、Aruba ブランドとジュニパーの製品を統合したネットワーキングソリューションを提供しています。Cisco が圧倒的シェアを持つネットワーキング市場において、統合されたソリューションで対抗しています。
(3) 市場でのポジショニング(エンタープライズIT老舗)
HPEは、エンタープライズIT市場で長年の実績を持つ老舗企業として、以下のポジショニングを確立しています:
- 大企業・政府機関向け: 金融、医療、製造業、政府機関など、大規模なITインフラを必要とする顧客に強み
- ハイブリッドクラウドの推進者: パブリッククラウド(AWS、Azure、Google Cloud)へ完全移行できない企業に、ハイブリッドクラウドソリューションを提供
- AI・エッジコンピューティングへの注力: AI需要の高まり、エッジコンピューティングの普及により、新たな成長機会を追求
一方で、クラウドシフトの加速により、オンプレミス市場の縮小が長期的なリスクとなっています。HPEがGreenLake as-a-Service モデルでどれだけ顧客を維持・拡大できるかが、今後の成長の鍵となります。
4. 財務・配当の実績
(1) 売上高・利益の推移(Q3 2025は過去最高91億ドル)
HPEの財務実績は以下の通りです(2025年第3四半期決算、2025年9月発表):
売上高の推移:
期間 | 売上高 | 前年比成長率 |
---|---|---|
2025年Q3 | 91億ドル | +18% |
2025年Q2 | 78億ドル | +10% |
2025年Q1 | 72億ドル | +8% |
2024年Q3 | 77億ドル | - |
2025年第3四半期の売上は過去最高の91億ドル(前年比18%増)を記録し、5四半期連続の前年比売上成長を達成しました。FY2025通期の売上成長率ガイダンスを7-9%から14-16%に上方修正しています。
セグメント別売上(2025年Q3):
- サーバーセグメント: 49億ドル(前年比16%増)
- ハイブリッドクラウド: 15億ドル(4四半期連続成長)
- Intelligent Edge(ネットワーキング): 17億ドル(前年比54%増、ジュニパー買収による)
- AI システム: 16億ドル(前四半期比で2倍以上に増加)
利益の推移:
期間 | Non-GAAP EPS | 前年比成長率 |
---|---|---|
2025年Q3 | 0.44ドル | - |
FY2026予想 | 2.20-2.40ドル | アナリスト予想を下回る |
2025年第3四半期のNon-GAAP EPS(一般会計基準に基づかない調整後1株利益)は0.44ドルでした。一方で、FY26のEPS予想2.20-2.40ドル(アナリスト予想を下回る)を発表し、株価が10.9%急落しました。また、グロス利益率が29.4%に急低下し、会計ミスによる在庫コスト処理の失敗(時価総額30億ドル減)が発生しています。
(出典: Hewlett Packard Enterprise Co 10-Q 2025 Q3, SEC EDGAR)
(2) 配当履歴(配当利回り約3%)
HPEは安定配当銘柄として、長期投資家から支持されています:
配当実績:
- 配当利回り: 約3%前後(株価により変動、2025年10月時点)
- 配当性向: 適正水準(利益の一部を配当として還元)
- 連続増配年数: 安定した配当を継続(詳細は公式IRページで確認)
配当利回りは、年間配当 ÷ 株価で計算されます。HPEの配当利回りは約3%前後で、長期投資家にとって魅力的な水準です。
配当の税金(日本人投資家の場合):
米国株の配当は、米国で10%の源泉税、日本で20.315%(所得税15.315%+住民税5%)の二重課税が発生します。外国税額控除を利用することで、米国で課税された10%を日本の所得税から差し引くことができます。また、NISA口座で保有すれば、日本での課税(20.315%)が非課税になりますが、米国の源泉税10%は課税されます。
(出典: 国税庁「外国税額控除」、SBI証券「米国株の税金ガイド」)
(3) 財務健全性(フリーキャッシュフロー・セグメント別業績)
HPEの財務健全性は以下の指標で評価できます:
フリーキャッシュフロー(FCF):
- FY2026予想: 15-20億ドル
フリーキャッシュフロー(FCF = 営業キャッシュフロー - 設備投資)は、企業が自由に使える現金を示します。HPEはFY2026のフリーキャッシュフロー予想15-20億ドルを発表し、配当支払い、自社株買い、M&A投資などに活用する予定です。
セグメント別業績(2025年Q3):
- サーバーセグメント: 49億ドル(前年比16%増)、HPEの最大の収益源
- Intelligent Edge(ネットワーキング): 17億ドル(前年比54%増、ジュニパー買収による)
- ハイブリッドクラウド: 15億ドル(4四半期連続成長)
- AI システム: 16億ドル(前四半期比で2倍以上に増加)
財務上の課題:
- グロス利益率が29.4%に急低下
- 会計ミスによる在庫コスト処理の失敗(時価総額30億ドル減)
- ジュニパー買収が2025年1月に米司法省から競争阻害の疑いで提訴され、統合計画に不透明感
(出典: Hewlett Packard Enterprise Co 10-Q 2025 Q3, SEC EDGAR)
5. リスク要因
(1) 事業リスク(FY26ガイダンス未達・Juniper統合の移行リスク)
FY26ガイダンス未達:
2025年10月のアナリストミーティングで、FY26のEPS予想2.20-2.40ドル(アナリスト予想を下回る)、売上成長率5-10%(期待値以下)を発表し、株価が10.9%急落しました。短期的な経済環境とジュニパー統合投資のバランスを取りながら、長期的なAI・クラウド成長に注力する方針ですが、投資家の期待を下回るガイダンスが株価の重石となっています。
Juniper統合の移行リスク:
2025年7月にジュニパーネットワークスを買収しましたが、ジュニパー+アルバ統合によるチャネル・顧客移行の短期的な売上圧力が懸念されています。3年間で6億ドルのコストシナジー創出を目標としていますが、統合プロセスが順調に進まない場合、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。また、2025年1月に米司法省から競争阻害の疑いで提訴されており、統合計画に不透明感があります。
(2) 市場環境リスク(クラウドシフト・競争激化・半導体在庫問題)
クラウドシフトによるオンプレミス需要減少:
エンタープライズIT市場は、オンプレミス(自社データセンター)からパブリッククラウド(AWS、Azure、Google Cloud)へのシフトが進んでいます。HPEの主力事業であるサーバー・ストレージは、オンプレミス需要に依存しているため、クラウドシフトの加速は長期的なリスクとなります。HPEはGreenLake as-a-Service モデルでハイブリッドクラウドを推進していますが、顧客をどれだけ維持・拡大できるかが課題です。
競争激化:
Dell Technologies、Cisco Systems、IBM、Lenovo等との競争が激化しています。特に、Dell は EMC 買収によりストレージ市場でのシェアを拡大し、Cisco はネットワーキング市場で圧倒的なシェアを持っています。価格競争、技術革新の速度、顧客ロックインの強さなどで、HPEが競合に劣る場合、市場シェアを失うリスクがあります。
半導体在庫問題:
2025年3月、通期利益見通し1.70-1.90ドル(アナリスト予想2.12ドルを下回る)を発表し、株価が時間外取引で15%急落しました。サーバー部門の値引き・コスト増・旧世代半導体の在庫が数四半期の利益を圧迫しています。半導体市場の変動により、在庫管理・コスト管理が困難になるリスクがあります。
(3) 規制・競争リスク(司法省提訴・アクティビスト介入)
司法省提訴(ジュニパー買収):
2025年1月、ジュニパーネットワークス買収が米司法省から競争阻害の疑いで提訴されました。統合計画に不透明感があり、最悪の場合、買収が取り消される可能性があります。ジュニパー買収はHPEのネットワーキング戦略の柱であるため、統合が失敗すれば、成長戦略に大きな影響を及ぼします。
アクティビスト投資家の介入:
2025年4月、アクティビスト投資家エリオット・マネジメントが15億ドルの株式を取得し、経営効率化と株価改善を要求しています。2018年以降の株価上昇率48%(S&P500の135%を大幅に下回る)という低迷したパフォーマンスが背景です。エリオット・マネジメントは、コスト削減、M&A戦略の見直し、株主還元の強化などを要求する可能性があり、経営方針の変更リスクがあります。
為替リスク:
日本人投資家にとって、為替リスク(ドル円の変動)は重要な考慮事項です。円高になれば、日本円ベースの投資収益が減少します。為替手数料(円をドルに交換する手数料)も証券会社により異なり、往復0.5-1円/ドル程度かかります。
6. まとめ:投資判断のポイント
(1) この銘柄の強み(AI需要・ハイブリッドクラウド・GreenLake)
ヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)の強みは以下の3点です:
1. AI需要の取り込み
AI システム収益が前四半期比で2倍以上に増加し、エンタープライズAI顧客数が前年比で3倍に拡大しています。NVIDIA との「AI Factory」ソリューション提携により、2030年まで年率31.6%成長が見込まれる9,330億ドル規模の AI インフラ市場を攻略しています。企業のAI導入ニーズが高まる中、HPEは成長機会を捉えています。
2. ハイブリッドクラウドの推進
GreenLake プラットフォームは、オンプレミスとクラウドを統合したハイブリッドクラウドソリューションを提供し、50以上のクラウドサービス、年間売上高7億7,500万ドル超、1,200社以上のビジネス顧客を獲得しています。ハイブリッドクラウド売上が4四半期連続で前年比成長し、クラウドシフトする企業の移行期間における需要を取り込んでいます。
3. GreenLake as-a-Service モデル
従来の機器販売(CapEx: 設備投資)から、サブスクリプション形式でのサービス提供(OpEx: 運用費用)への転換により、安定した継続収益を確保しています。顧客ロックイン(長期契約)、製品ライフサイクル全体での収益化が可能になり、ビジネスモデルの強化が進んでいます。
(2) リスク要因(再掲:ガイダンス未達・統合リスク・競争)
1. FY26ガイダンス未達
FY26のEPS予想2.20-2.40ドル(アナリスト予想を下回る)、売上成長率5-10%(期待値以下)により、株価が10.9%急落しました。短期的な業績見通しが投資家の期待を下回っています。
2. Juniper統合の移行リスク
ジュニパー+アルバ統合によるチャネル・顧客移行の短期的な売上圧力、2025年1月に米司法省から競争阻害の疑いで提訴された統合計画の不透明感があります。統合が失敗すれば、成長戦略に大きな影響を及ぼします。
3. クラウドシフトによるオンプレミス需要減少
エンタープライズIT市場のクラウドシフトが加速し、オンプレミス需要が減少するリスクがあります。HPEがGreenLake as-a-Service モデルでどれだけ顧客を維持・拡大できるかが長期的な課題です。
(3) 向いている投資家(配当重視・エンタープライズIT志向・長期投資)
HPEは以下のような投資家に向いています:
1. 配当重視の投資家
配当利回り約3%前後で安定配当銘柄として、長期投資家から支持されています。インカムゲイン(配当収入)を重視する投資家に適しています。
2. エンタープライズIT・ハイブリッドクラウドトレンドに投資したい投資家
エンタープライズIT市場の成長、ハイブリッドクラウドの普及、AI需要の高まりに注目する投資家に適しています。老舗IT企業として、長年の実績と顧客基盤を持っています。
3. AI需要の長期成長に期待する投資家
NVIDIA との「AI Factory」ソリューション提携により、AI インフラ市場(2030年まで年率31.6%成長、9,330億ドル規模)を攻略しています。AI需要の長期成長に期待する投資家に適しています。
免責事項:
本記事は情報提供を目的としており、個別銘柄の推奨や投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。為替リスク、市場リスク、企業固有のリスクを十分に理解した上で投資してください。
Q: ヒューレット・パッカード・エンタープライズの配当利回りは?
A: 約3%前後です(株価により変動、2025年10月時点)。安定配当銘柄として、長期投資家から支持されています。配当利回りは、年間配当 ÷ 株価で計算されます。米国株の配当は、米国で10%の源泉税、日本で20.315%(所得税15.315%+住民税5%)の二重課税が発生しますが、外国税額控除を利用することで、米国で課税された10%を日本の所得税から差し引くことができます。また、NISA口座で保有すれば、日本での課税(20.315%)が非課税になりますが、米国の源泉税10%は課税されます。詳細は本文「4. 財務・配当の実績」を参照してください。
Q: ヒューレット・パッカード・エンタープライズの主な競合は?
A: Dell Technologies(DELL)、Cisco Systems(CSCO)、IBM(IBM)、Lenovo等が主要競合です。差別化ポイントは、GreenLake as-a-Serviceモデル(ハイブリッドクラウド対応)、NVIDIA との「AI Factory」ソリューション提携(AI対応)、ジュニパー買収によるネットワーキング統合(3年間で6億ドルのコストシナジー創出)です。詳細は本文「3. 競合との差別化」を参照してください。
Q: ヒューレット・パッカード・エンタープライズのリスク要因は?
A: 主なリスク要因は以下の通りです:(1)FY26ガイダンス未達(EPS予想2.20-2.40ドル、アナリスト予想を下回る)、(2)ジュニパー統合の移行リスク(チャネル・顧客移行の短期的な売上圧力)、(3)2025年1月に米司法省から競争阻害の疑いで提訴されたジュニパー買収の不透明感、(4)クラウドシフトによるオンプレミス需要減少、(5)Dell・Cisco等との競争激化、(6)半導体在庫問題(旧世代半導体の在庫が利益を圧迫)、(7)アクティビスト投資家エリオット・マネジメントの介入(経営効率化と株価改善を要求)。詳細は本文「5. リスク要因」を参照してください。
Q: ヒューレット・パッカード・エンタープライズは長期投資に向いている?
A: 以下のような投資家に向いています:(1)配当利回り約3%を重視する投資家、(2)エンタープライズIT・ハイブリッドクラウドトレンドに投資したい投資家、(3)AI需要の長期成長に期待する投資家。ただし、短期的にはFY26ガイダンス未達、Juniper統合の移行期間であることに留意が必要です。投資判断はご自身の責任で行ってください。詳細は本文「6. まとめ:投資判断のポイント」を参照してください。
Q: HP Inc.(HPQ)との違いは?
A: HPEは法人向けエンタープライズIT(サーバー・ストレージ・ネットワーキング)に特化し、HP Inc.(HPQ)は個人向けPC・プリンター事業に特化しています。2015年11月に旧HP社から企業向けハードウェア事業として分社化されました。分社化の目的は、それぞれの事業の成長戦略を最適化し、株主価値を最大化することでした。HPEの主力事業はサーバー(売上49億ドル、2025年Q3)、ネットワーキング(売上17億ドル、ジュニパー買収後)、ハイブリッドクラウド(GreenLake プラットフォーム)です。詳細は本文「2. ヒューレット・パッカード・エンタープライズの事業内容・成長戦略」を参照してください。