S&P500

HP (HPQ)

HP Inc

0. この記事でわかること

本記事では、HP(HPQ)について以下の情報を提供します:

  • なぜ注目されているのか: AI PC の積極展開(製品ミックス25%、前四半期比で2桁成長)、Future Ready プログラムによる年間20億ドルのコスト削減、プリント事業のサブスクリプション化という3つの成長戦略。2025年第3四半期は5四半期連続の売上成長を達成し、売上139.3億ドル(前年比3%増)、EPS 0.75ドル(予想を上回る)
  • 事業内容と成長戦略: PC・プリンター専業企業として、ハイブリッドワーク向けプレミアムPC、サブスクリプション型プリントサービス(HP+)、3Dプリンティング事業に注力。サプライチェーン多様化により、北米で販売される製品のほぼ全てを中国外(ベトナム、タイ、メキシコ、米国)で製造
  • 競合との差別化: Dell Technologies、Lenovo(PC部門)、Canon、Epson(プリンター部門)との競争において、AI PC の積極展開、老舗ブランド力、3Dプリンティング・産業用印刷の拡大で差別化
  • 財務・配当の実績: 2025年第3四半期の売上139.3億ドル(前年比3%増)、EPS 0.75ドル、配当利回り約4%前後で高配当銘柄。営業キャッシュフロー17億ドル、フリーキャッシュフロー15億ドル、株主還元4億ドル超(配当・自社株買い)
  • リスク要因: 2025年5月のガイダンス未達(EPS予想0.68-0.80ドル、アナリスト予想0.91ドルを大幅に下回る)、米中関税コスト(1株あたり0.12ドルの利益減)、PC市場の成熟化、プリント需要の構造的減少、在庫過剰リスク(売上高の16%)

※2025年10月時点のデータです。最新情報はHP Inc公式IRページをご確認ください。

1. なぜHP(HPQ)が注目されているのか

(1) 成長戦略の3つのポイント

HP(HPQ)は、2015年にヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)から分離したPC・プリンター専業企業として、以下3つの成長戦略で注目を集めています:

1. AI PC の積極展開

HPは、AI搭載PCが製品ミックスの25%に到達し、前四半期比で2桁成長を記録しています。Windows 11およびAI PC採用が今後のPC市場成長を牽引すると予測されており、EliteBook Ultra PC、34時間バッテリー駆動のOmniBook 5など革新的な製品を投入しています。AI PC は、オンデバイスAI機能により、クラウドに依存せずに生産性を向上させることができ、ハイブリッドワーク環境で働く企業ユーザーから注目を集めています。

2. Future Ready プログラムによるコスト削減

2025会計年度末までに年間20億ドルの構造的コスト削減を達成する計画が順調に進行しています。サプライチェーン多様化により、北米で販売される製品のほぼ全てを中国外(ベトナム、タイ、メキシコ、米国)で製造し、米中関税リスクを軽減しています。また、製造プロセスの効率化、サプライチェーンの最適化、組織再編により、収益性を改善しています。

3. プリント事業のサブスクリプション化

サービスベースの定期収益モデルへの転換により、プリント事業の収益性を向上させています。3Dプリンティング・産業用印刷の拡大により、従来のプリンター・サプライ需要の低迷を相殺しています。サブスクリプションモデル(HP+など)では、顧客が月額料金を支払うことで、プリンター本体、インク、保守サービスを一括で利用でき、HPは安定した継続収益を確保しています。

(2) 注目テーマ(AI PC・サプライチェーン多様化・サブスクリプション)

投資家が注目する主要テーマは以下の3つです:

  • AI PC・ハイブリッドワーク: AI搭載PCが製品ミックスの25%に到達し、前四半期比で2桁成長。ハイブリッドワーク環境で働く企業ユーザーから需要が高まり、PC市場の成長を牽引
  • サプライチェーン多様化・脱中国製造: 北米で販売される製品のほぼ全てを中国外(ベトナム、タイ、メキシコ、米国)で製造し、米中関税リスクを軽減。地政学的リスクに対応したサプライチェーン戦略
  • サブスクリプション・定期収益モデル: プリント事業をサブスクリプションモデルに転換し、安定した継続収益を確保。3Dプリンティング・産業用印刷の拡大により、従来のプリンター・サプライ需要の低迷を相殺

(3) 投資家の関心・懸念点

投資家の関心:

2025年第3四半期は5四半期連続の売上成長を達成し、売上139.3億ドル(前年比3%増)、EPS 0.75ドル(予想0.74ドルを上回る)と好調な業績を報告しました。Personal Systems(PC部門)売上が前年比6%増、AI PC が製品ミックスの25%を占め、商業用PC部門が成長を牽引しています。営業キャッシュフロー17億ドル、フリーキャッシュフロー15億ドル、株主還元4億ドル超(配当・自社株買い)と、キャッシュフロー創出能力も高く、配当利回り約4%で高配当銘柄として長期投資家から支持されています。

投資家の懸念:

一方で、2025年5月のガイダンスで第3四半期EPSを0.68-0.80ドルと予想(アナリスト予想0.91ドルを大幅に下回る)し、株価が15%急落しました。米中関税と中国外への生産移転コストが1株あたり0.12ドルの利益減少要因となり、短期的な業績見通しに懸念が広がっています。また、2024年11月にも利益見通しが市場予想を下回り、PC市場の回復が進まないことが明らかになりました。在庫水準が売上高の12-13%から16%に上昇し、景気悪化時の評価損リスクが増大しています。プリント事業の2%減収も短期的な懸念材料です。

2. HPの事業内容・成長戦略

(1) 主力事業(PC・プリンター)

HPの主力事業は以下の2つのセグメントに分かれています:

1. Personal Systems(PC部門)

Personal Systems セグメントは、個人向け・企業向けのPC、ワークステーション、ディスプレイ、周辺機器を提供しています。2025年第3四半期の売上は前年比6%増を記録し、AI PC が製品ミックスの25%を占めています。主要製品は以下の通りです:

  • EliteBook Ultra PC: 企業向けプレミアムPC。AI機能を搭載し、ハイブリッドワーク環境での生産性を向上
  • OmniBook 5: 34時間バッテリー駆動の長時間駆動PC。モバイルワーカー向けに最適化
  • ゲーミングPC(Omen・Victusブランド): ゲーミング市場向けの高性能PC

PC市場は成熟市場ですが、AI PC の登場により、Windows 11 への移行需要、ハイブリッドワークの普及、企業のデジタルトランスフォーメーションが成長を牽引しています。

2. Print(プリンター部門)

Print セグメントは、個人向け・企業向けのプリンター、複合機、サプライ(インク・トナー)、3Dプリンティング、産業用印刷を提供しています。2025年第3四半期の売上は前年比2%減と、従来のプリンター・サプライ需要の低迷が続いています。一方で、以下の成長分野に注力しています:

  • HP+(サブスクリプションモデル): 月額料金でプリンター本体、インク、保守サービスを一括提供。安定した継続収益を確保
  • 3Dプリンティング: 製造業向けの3Dプリンター(HP Jet Fusion シリーズ)。試作品製作、カスタマイズ製品の製造に活用
  • 産業用印刷(デジタルプレス): 商業印刷・パッケージ印刷向けの大型デジタルプレス

プリント事業は構造的に需要が減少していますが、サブスクリプション化、3Dプリンティング、産業用印刷により、収益性を改善しています。

(2) セクター・業種の説明(IT機器メーカー)

HPは、セクターとして「Information Technology(情報技術)」、業種として「Technology Hardware, Storage & Peripherals(テクノロジーハードウェア、ストレージ、周辺機器)」に分類されます。

IT機器市場の特性:

IT機器市場は、PC、プリンター、周辺機器など、個人・企業向けのハードウェアを提供する市場です。PC市場は成熟市場で、出荷台数の成長は限定的ですが、AI PC、ハイブリッドワーク、Windows 11 への移行需要により、2023-2026年にCAGR 4.4%で成長すると予測されています。プリンター市場は、デジタル化の進展により、構造的に需要が減少していますが、3Dプリンティング、産業用印刷などの新分野が成長しています。

HPE(ヒューレット・パッカード・エンタープライズ)との違い:

HPは2015年11月に旧HP社から個人向けPC・プリンター事業として分社化されました。HPは個人向けPC・プリンター事業に特化し、HPEは法人向けエンタープライズIT(サーバー・ストレージ・ネットワーキング)に特化しています。分社化の目的は、それぞれの事業の成長戦略を最適化し、株主価値を最大化することでした。

(3) ビジネスモデルの特徴(ハイブリッドワーク・サブスクモデル)

HPの最大の特徴は、以下の2つのビジネスモデルです:

1. ハイブリッドワーク向けソリューション

コロナ禍以降、ハイブリッドワーク(オフィスと在宅勤務の併用)が普及し、企業のPC需要が高まっています。HPは、AI PC、長時間バッテリー駆動PC、セキュリティ強化PC など、ハイブリッドワーク環境で働く企業ユーザー向けのソリューションを提供しています。また、HP Wolf Security(セキュリティソフト)、HP Proactive Security(脅威検知サービス)など、セキュリティ対策も強化しています。

2. サブスクリプションモデル(HP+)

プリント事業では、従来の機器販売から、サブスクリプション形式でのサービス提供(HP+)への転換を進めています。HP+では、顧客が月額料金を支払うことで、プリンター本体、インク、保守サービスを一括で利用できます。これにより、HPは安定した継続収益を確保し、顧客ロックイン(長期契約)、製品ライフサイクル全体での収益化が可能になります。

Future Ready プログラム:

2020年に発表されたFuture Ready プログラムは、以下の3本柱で構成されています:

  • 最適な製品・サービス提供: AI PC、3Dプリンティング、サブスクリプションモデルなど、顧客ニーズに応える製品・サービスを提供
  • 社内DX推進: デジタル技術を活用した業務効率化、サプライチェーンの最適化
  • 多様性に富んだ人材育成: ダイバーシティ&インクルージョン、持続可能性を重視した企業文化の構築

2025会計年度末までに年間20億ドルの構造的コスト削減を達成する計画が順調に進行しています。

3. 競合との差別化

(1) 主要競合企業(Dell・Lenovo・Canon・Epson等)

HPの主要競合企業は以下の通りです:

PC部門の競合:

1. Dell Technologies(DELL)

PC市場でHPと並ぶ最大のライバルです。企業向けPC(Latitude・OptiPlex)、個人向けPC(Inspiron・XPS)、ゲーミングPC(Alienware)など、幅広い製品ポートフォリオを持っています。Dell は直販モデル(Dell.com)で顧客との直接取引を強化し、カスタマイズPCの提供で差別化しています。

2. Lenovo

中国企業で、2005年にIBMのPC事業を買収し、PC市場に参入しました。ThinkPad(企業向け)、IdeaPad(個人向け)、Legion(ゲーミング)など、幅広い製品ラインナップを持っています。価格競争力を武器に、アジア・太平洋地域でのシェアを拡大しています。

プリンター部門の競合:

3. Canon(CAJ)

日本企業で、プリンター・複合機市場で長年のシェアを持っています。PIXUS(個人向け)、imageRUNNER(企業向け)など、高品質な印刷技術で知られています。

4. Epson(EPSON)

日本企業で、インクジェットプリンター市場で高いシェアを持っています。エコタンク方式(大容量インクタンク)により、インクコストを大幅に削減し、個人・企業ユーザーから支持されています。

(2) 競合優位性(AI PC・ブランド力・3Dプリンティング)

HPの競合優位性は以下の3点です:

1. AI PC の積極展開

AI搭載PCが製品ミックスの25%に到達し、前四半期比で2桁成長を記録しています。EliteBook Ultra PC、OmniBook 5 など、革新的なAI PC を投入し、ハイブリッドワーク環境で働く企業ユーザーから支持を得ています。Dell や Lenovo もAI PC を展開していますが、HPは老舗ブランド力と製品開発力で差別化しています。

2. 老舗ブランド力

HPは、1939年創業の老舗IT企業として、長年のブランド力を持っています。個人・企業ユーザーから信頼されており、PC・プリンター市場でトップシェアを維持しています。Warren Buffett(バークシャー・ハサウェイ)が過去にHP株を保有していたこと(後に売却)も、ブランド力の証です。

3. 3Dプリンティング・産業用印刷

3Dプリンティング(HP Jet Fusion シリーズ)、産業用印刷(デジタルプレス)など、新分野での事業拡大により、従来のプリンター・サプライ需要の低迷を相殺しています。Dell や Lenovo はプリンター事業を持っていないため、HPの独自の強みです。

(3) 市場でのポジショニング(老舗PC・プリンターメーカー)

HPは、PC・プリンター市場で長年のトップシェアを維持する老舗メーカーとして、以下のポジショニングを確立しています:

  • 個人・企業向けPC: ハイブリッドワーク、AI PC、ゲーミングなど、幅広い顧客ニーズに対応
  • プリンター・サプライ: 個人向けインクジェットプリンター、企業向けレーザープリンター、3Dプリンティング、産業用印刷
  • 高配当銘柄: 配当利回り約4%で、長期投資家から支持される安定配当銘柄

一方で、PC市場の成熟化、プリント需要の構造的減少が長期的なリスクとなっています。HPがAI PC、3Dプリンティング、サブスクリプションモデルでどれだけ成長を維持できるかが、今後の鍵となります。

4. 財務・配当の実績

(1) 売上高・利益の推移(Q3 2025は5四半期連続成長)

HPの財務実績は以下の通りです(2025年第3四半期決算、2025年8月発表):

売上高の推移:

期間 売上高 前年比成長率
2025年Q3 139.3億ドル +3%
2025年Q2 約135億ドル +2%
2025年Q1 約133億ドル +1%
2024年Q3 約135億ドル -

2025年第3四半期の売上は139.3億ドル(前年比3%増、予想136.8億ドルを上回る)を記録し、5四半期連続の前年比売上成長を達成しました。

セグメント別売上(2025年Q3):

  • Personal Systems(PC部門): 前年比6%増(AI PC が製品ミックスの25%)
  • Print(プリンター部門): 前年比2%減(従来のプリンター・サプライ需要の低迷)

利益の推移:

期間 EPS 前年比成長率
2025年Q3 0.75ドル 予想0.74ドルを上回る
2025年Q3予想(5月発表) 0.68-0.80ドル アナリスト予想0.91ドルを大幅に下回る
2025年Q1 0.74ドル 前年比9%減

2025年第3四半期のEPSは0.75ドル(予想0.74ドルを上回る)と、アナリスト予想を上回りました。一方で、2025年5月のガイダンスで第3四半期EPSを0.68-0.80ドルと予想(アナリスト予想0.91ドルを大幅に下回る)し、株価が15%急落しました。米中関税と中国外への生産移転コストが1株あたり0.12ドルの利益減少要因となっています。

(出典: HP Inc 10-Q 2025 Q3, SEC EDGAR)

(2) 配当履歴(配当利回り約4%)

HPは高配当銘柄として、長期投資家から支持されています:

配当実績:

  • 配当利回り: 約4%前後(株価により変動、2025年10月時点)
  • 配当性向: 適正水準(利益の一部を配当として還元)
  • 連続増配年数: 安定した配当を継続(詳細は公式IRページで確認)

配当利回りは、年間配当 ÷ 株価で計算されます。HPの配当利回りは約4%前後で、高配当銘柄として長期投資家にとって魅力的な水準です。

配当の税金(日本人投資家の場合):

米国株の配当は、米国で10%の源泉税、日本で20.315%(所得税15.315%+住民税5%)の二重課税が発生します。外国税額控除を利用することで、米国で課税された10%を日本の所得税から差し引くことができます。また、NISA口座で保有すれば、日本での課税(20.315%)が非課税になりますが、米国の源泉税10%は課税されます。

(出典: 国税庁「外国税額控除」、SBI証券「米国株の税金ガイド」)

(3) 財務健全性(フリーキャッシュフロー・自社株買い)

HPの財務健全性は以下の指標で評価できます:

フリーキャッシュフロー(FCF):

  • 2025年Q3: 営業キャッシュフロー17億ドル、フリーキャッシュフロー15億ドル

フリーキャッシュフロー(FCF = 営業キャッシュフロー - 設備投資)は、企業が自由に使える現金を示します。HPはフリーキャッシュフロー15億ドルを創出し、配当支払い、自社株買い、M&A投資などに活用しています。

株主還元(配当・自社株買い):

  • 2025年Q3: 株主還元4億ドル超(配当・自社株買い)

HPは株主還元を重視しており、配当と自社株買いを継続しています。自社株買いにより、発行済株式数が減少し、1株あたり利益(EPS)が向上します。

財務上の課題:

  • 在庫水準が売上高の12-13%から16%に上昇(景気悪化時の評価損リスク)
  • 米中関税コスト(1株あたり0.12ドルの利益減)
  • 部品価格上昇による収益性悪化

(出典: HP Inc 10-Q 2025 Q3, SEC EDGAR)

5. リスク要因

(1) 事業リスク(ガイダンス未達・PC市場成熟化・プリント需要減少)

ガイダンス未達:

2025年5月のガイダンスで第3四半期EPSを0.68-0.80ドルと予想(アナリスト予想0.91ドルを大幅に下回る)し、株価が15%急落しました。米中関税と中国外への生産移転コストが1株あたり0.12ドルの利益減少要因となり、短期的な業績見通しに懸念が広がっています。また、2024年11月にも利益見通しが市場予想を下回り、PC市場の回復が進まないことが明らかになりました。

PC市場の成熟化:

PC市場は成熟市場で、出荷台数の成長は限定的です。スマートフォン・タブレットの普及により、個人向けPC需要が減少しています。企業向けPC需要は、ハイブリッドワーク、Windows 11 への移行、AI PC により一定の成長が見込まれますが、長期的には成熟化のリスクがあります。

プリント需要の構造的減少:

プリント事業は、デジタル化の進展により、構造的に需要が減少しています。ペーパーレス化、電子書類の普及により、個人・企業ユーザーの印刷需要が減少しています。HPは、サブスクリプションモデル(HP+)、3Dプリンティング、産業用印刷により収益性を改善していますが、従来のプリンター・サプライ需要の低迷は長期的な課題です。

(2) 市場環境リスク(関税コスト・景気減速・在庫過剰)

関税コスト:

米中関税と中国外への生産移転コストが1株あたり0.12ドルの利益減少要因となっています。HPは、北米で販売される製品のほぼ全てを中国外(ベトナム、タイ、メキシコ、米国)で製造し、関税リスクを軽減していますが、生産移転コストが短期的な利益を圧迫しています。米中貿易政策の変更により、関税率が変動するリスクもあります。

景気減速:

PC・プリンター市場は景気循環業種であり、景気減速時には需要が減少します。2025年5月のガイダンス未達の背景には、景気減速による需要の弱さがあります。特に、個人向けPC・プリンター需要は、消費者の購買力に依存するため、景気悪化時には大きく減少します。

在庫過剰リスク:

在庫水準が売上高の12-13%から16%に上昇しており、景気悪化時の評価損リスクが増大しています。在庫過剰は、製品の値引き、在庫処分、評価損計上などのリスクを伴います。HPは、サプライチェーンの最適化、需要予測の精度向上により、在庫管理を強化していますが、景気循環業種として在庫リスクは避けられません。

(3) 規制・競争リスク(部品価格上昇・競合激化)

部品価格上昇:

半導体、ディスプレイ、メモリなどの部品価格上昇により、収益性が悪化しています。2024年11月にも、部品コスト上昇が利益見通しを下回る要因となりました。部品価格は市場の需給バランスにより変動するため、HPがコントロールできないリスクです。

競合激化:

Dell Technologies、Lenovo(PC部門)、Canon、Epson(プリンター部門)との競争が激化しています。特に、Lenovo は価格競争力を武器にシェアを拡大しており、HPは価格競争に巻き込まれるリスクがあります。また、Epson のエコタンク方式(大容量インクタンク)により、インクコストを大幅に削減する競合製品が登場し、HPのプリンター・サプライ事業に影響を及ぼしています。

為替リスク:

日本人投資家にとって、為替リスク(ドル円の変動)は重要な考慮事項です。円高になれば、日本円ベースの投資収益が減少します。為替手数料(円をドルに交換する手数料)も証券会社により異なり、往復0.5-1円/ドル程度かかります。

6. まとめ:投資判断のポイント

(1) この銘柄の強み(高配当・AI PC・株主還元)

HP(HPQ)の強みは以下の3点です:

1. 高配当

配当利回り約4%で、高配当銘柄として長期投資家から支持されています。安定した配当を継続しており、インカムゲイン(配当収入)を重視する投資家に適しています。

2. AI PC の積極展開

AI搭載PCが製品ミックスの25%に到達し、前四半期比で2桁成長を記録しています。ハイブリッドワーク環境で働く企業ユーザーから需要が高まり、PC市場の成長を牽引しています。EliteBook Ultra PC、OmniBook 5 など、革新的な製品を投入しています。

3. 株主還元の継続

営業キャッシュフロー17億ドル、フリーキャッシュフロー15億ドル、株主還元4億ドル超(配当・自社株買い)と、キャッシュフロー創出能力が高く、株主還元を重視しています。自社株買いにより、発行済株式数が減少し、1株あたり利益(EPS)が向上します。

(2) リスク要因(再掲:関税コスト・市場成熟化・在庫リスク)

1. 関税コスト

米中関税と中国外への生産移転コストが1株あたり0.12ドルの利益減少要因となっています。短期的な業績見通しに懸念が広がっています。

2. PC市場の成熟化・プリント需要の構造的減少

PC市場は成熟市場で、出荷台数の成長は限定的です。プリント事業は、デジタル化の進展により、構造的に需要が減少しています。長期的な成長が見込みにくい市場環境です。

3. 在庫過剰リスク

在庫水準が売上高の16%に上昇しており、景気悪化時の評価損リスクが増大しています。在庫過剰は、製品の値引き、在庫処分、評価損計上などのリスクを伴います。

(3) 向いている投資家(高配当志向・老舗ブランド重視・安定志向)

HPは以下のような投資家に向いています:

1. 高配当志向の投資家

配当利回り約4%で、高配当銘柄として長期投資家から支持されています。インカムゲイン(配当収入)を重視する投資家に適しています。

2. 老舗ブランドの安定性を好む投資家

1939年創業の老舗IT企業として、長年のブランド力を持っています。個人・企業ユーザーから信頼されており、PC・プリンター市場でトップシェアを維持しています。

3. ハイブリッドワーク・AI PCトレンドに期待する投資家

AI PC、ハイブリッドワーク、3Dプリンティングなど、新分野での成長に期待する投資家に適しています。一方、成長株志向の投資家には不向きです(PC市場の成熟化、プリント需要の構造的減少)。

免責事項:

本記事は情報提供を目的としており、個別銘柄の推奨や投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。為替リスク、市場リスク、企業固有のリスクを十分に理解した上で投資してください。

Q: HPの配当利回りは?

A: 約4%前後です(株価により変動、2025年10月時点)。高配当銘柄として、配当重視の長期投資家から支持されています。配当利回りは、年間配当 ÷ 株価で計算されます。米国株の配当は、米国で10%の源泉税、日本で20.315%(所得税15.315%+住民税5%)の二重課税が発生しますが、外国税額控除を利用することで、米国で課税された10%を日本の所得税から差し引くことができます。また、NISA口座で保有すれば、日本での課税(20.315%)が非課税になりますが、米国の源泉税10%は課税されます。詳細は本文「4. 財務・配当の実績」を参照してください。

Q: HPの主な競合は?

A: PC部門ではDell Technologies(DELL)、Lenovo。プリンター部門ではCanon(CAJ)、Epson(EPSON)が主要競合です。差別化ポイントは、AI PC の積極展開(製品ミックス25%、前四半期比で2桁成長)、老舗ブランド力、3Dプリンティング・産業用印刷の拡大です。詳細は本文「3. 競合との差別化」を参照してください。

Q: HPのリスク要因は?

A: 主なリスク要因は以下の通りです:(1)2025年5月のガイダンス未達(EPS予想0.68-0.80ドル、アナリスト予想0.91ドルを大幅に下回る)、(2)米中関税コスト(1株あたり0.12ドルの利益減)、(3)PC市場の成熟化、(4)プリント需要の構造的減少、(5)在庫過剰リスク(売上高の16%)、(6)部品価格上昇による収益性悪化、(7)Dell・Lenovo・Canon・Epson等との競争激化。詳細は本文「5. リスク要因」を参照してください。

Q: HPは長期投資に向いている?

A: 以下のような投資家に向いています:(1)配当利回り約4%を重視する高配当志向の投資家、(2)老舗ブランドの安定性を好む投資家、(3)ハイブリッドワーク・AI PCトレンドに期待する投資家。一方、成長株志向の投資家には不向きです(PC市場の成熟化、プリント需要の構造的減少)。投資判断はご自身の責任で行ってください。詳細は本文「6. まとめ:投資判断のポイント」を参照してください。

Q: HPとHPE(ヒューレット・パッカード・エンタープライズ)の違いは?

A: HPは個人向けPC・プリンター事業に特化し、HPEは法人向けエンタープライズIT(サーバー・ストレージ・ネットワーキング)に特化しています。2015年11月に旧HP社から個人向けPC・プリンター事業として分社化されました。分社化の目的は、それぞれの事業の成長戦略を最適化し、株主価値を最大化することでした。HPの主力事業はPC(Personal Systems、売上前年比6%増)、プリンター(Print、売上前年比2%減)です。詳細は本文「2. HPの事業内容・成長戦略」を参照してください。

よくある質問

Q1HPの配当利回りは?

A1約4%前後です(株価により変動、2025年10月時点)。高配当銘柄として、配当重視の長期投資家から支持されています。配当利回りは、年間配当 ÷ 株価で計算されます。米国株の配当は、米国で10%の源泉税、日本で20.315%(所得税15.315%+住民税5%)の二重課税が発生しますが、外国税額控除を利用することで、米国で課税された10%を日本の所得税から差し引くことができます。また、NISA口座で保有すれば、日本での課税(20.315%)が非課税になりますが、米国の源泉税10%は課税されます。詳細は本文「4. 財務・配当の実績」を参照してください。

Q2HPの主な競合は?

A2PC部門ではDell Technologies(DELL)、Lenovo。プリンター部門ではCanon(CAJ)、Epson(EPSON)が主要競合です。差別化ポイントは、AI PC の積極展開(製品ミックス25%、前四半期比で2桁成長)、老舗ブランド力、3Dプリンティング・産業用印刷の拡大です。詳細は本文「3. 競合との差別化」を参照してください。

Q3HPのリスク要因は?

A3主なリスク要因は以下の通りです:(1)2025年5月のガイダンス未達(EPS予想0.68-0.80ドル、アナリスト予想0.91ドルを大幅に下回る)、(2)米中関税コスト(1株あたり0.12ドルの利益減)、(3)PC市場の成熟化、(4)プリント需要の構造的減少、(5)在庫過剰リスク(売上高の16%)、(6)部品価格上昇による収益性悪化、(7)Dell・Lenovo・Canon・Epson等との競争激化。詳細は本文「5. リスク要因」を参照してください。

Q4HPは長期投資に向いている?

A4以下のような投資家に向いています:(1)配当利回り約4%を重視する高配当志向の投資家、(2)老舗ブランドの安定性を好む投資家、(3)ハイブリッドワーク・AI PCトレンドに期待する投資家。一方、成長株志向の投資家には不向きです(PC市場の成熟化、プリント需要の構造的減少)。投資判断はご自身の責任で行ってください。詳細は本文「6. まとめ:投資判断のポイント」を参照してください。

Q5HPとHPE(ヒューレット・パッカード・エンタープライズ)の違いは?

A5HPは個人向けPC・プリンター事業に特化し、HPEは法人向けエンタープライズIT(サーバー・ストレージ・ネットワーキング)に特化しています。2015年11月に旧HP社から個人向けPC・プリンター事業として分社化されました。分社化の目的は、それぞれの事業の成長戦略を最適化し、株主価値を最大化することでした。HPの主力事業はPC(Personal Systems、売上前年比6%増)、プリンター(Print、売上前年比2%減)です。詳細は本文「2. HPの事業内容・成長戦略」を参照してください。