0. この記事でわかること
本記事では、ヘンリー・シャイン(HSIC)について以下の情報を提供します:
- なぜ注目されているのか: BOLD+1戦略計画(2025-2027)により高成長・高マージンビジネスへのシフトを推進し、2024年に全世界営業利益の41%を高成長・高マージン事業から創出(目標40%超過達成)。KKRが2.5億ドルの追加投資を実施し12%の株式を保有、KKR Capsoneと協力してオペレーション改善を推進
- 事業内容と成長戦略: 世界最大級の歯科・医療機器ディストリビューターとして、歯科(60%)、医療(25%)、動物医療(15%)の3事業で安定収益を確保。3セグメント制に再編(Global Distribution 108億ドル、Global Specialty Products 14億ドル、Global Technology 6億ドル)し、デジタル変革を推進
- 競合との差別化: Patterson Companies、Benco Dental(歯科)、McKesson、Cardinal Health(医療流通)との競争において、世界最大のヘルスケアディストリビューターとしてのスケールメリット、クラウドベースPractice Management顧客が前年比20%増、高成長・高マージンビジネスへのシフトで差別化
- 財務・配当の実績: 2025年第1四半期のNon-GAAP EPS 1.15ドル、営業キャッシュフロー3,700万ドル。2025年通期ガイダンスは売上成長2-4%、Non-GAAP EPS 4.80-4.94ドル(前年比1-4%成長)。配当利回り約1%前後
- リスク要因: 為替変動・インフレによるコスト増、激しい競争環境(Patterson Dental、McKessonなど)、2023年に発生したサイバーセキュリティインシデント(製造・流通業務の一部が一時的に中断)、医療費抑制政策
※2025年10月時点のデータです。最新情報はHenry Schein Inc公式IRページをご確認ください。
1. なぜヘンリー・シャイン(HSIC)が注目されているのか
(1) 成長戦略の3つのポイント
ヘンリー・シャイン(HSIC)は、世界最大級の歯科・医療機器ディストリビューターとして、以下3つの成長戦略で注目を集めています:
1. BOLD+1 戦略計画(2025-2027)の推進
高成長・高マージンビジネスへのシフトを加速しています。2024年に全世界営業利益の41%を高成長・高マージン事業から創出し、2022-2024年計画の目標40%を超過達成しました。2025年を基盤年として、長期的な高1桁-低2桁のEPS成長を目指しています。BUILD戦略(ソフトウェア、専門製品、サービスを補完的に構築)により、高成長・高マージンビジネスへのミックスをシフトしています。
2. KKR との戦略的パートナーシップ
2025年1月にKKRが2.5億ドルの追加投資を実施し、12%の株式(非インデックスファンドで最大株主)を保有しています。KKR Capstone と協力してディストリビューション粗利益率の向上、自社製品ポートフォリオの販売加速を推進しています。2026年初頭から成果創出を見込んでいます。
3. 組織再編とデジタル変革
3セグメント制に再編しました:Global Distribution and Value-Added Services(108億ドル)、Global Specialty Products(14億ドル)、Global Technology(6億ドル)。Henry Schein Marketplace を導入し、デジタル変革戦略を推進しています。クラウドベースの顧客が前年比20%増加しています。
(2) 注目テーマ(BOLD+1戦略・KKRパートナーシップ・デジタル変革)
投資家が注目する主要テーマは以下の3つです:
- BOLD+1 戦略・高成長高マージンへのシフト: ソフトウェア、専門製品、サービスへのポートフォリオシフトにより、2024年に営業利益の41%を高成長・高マージン事業から創出
- KKR パートナーシップ・オペレーション改善: KKRが12%の株式を保有し、KKR Capsoneと協力して粗利益率向上、自社製品販売加速を推進。2026年初頭から成果創出を見込む
- デジタル変革・クラウドベース Practice Management: クラウドベース顧客が前年比20%増加、Henry Schein Marketplaceの導入によりデジタル化を推進
(3) 投資家の関心・懸念点
投資家の関心:
2025年第1四半期に堅調な業績を報告し、売上成長が四半期を通じて加速しました。Non-GAAP EPSは1.15ドル、営業キャッシュフローは3,700万ドルを達成しています。2025年通期ガイダンスは売上成長2-4%、Non-GAAP EPS 4.80-4.94ドル(前年比1-4%成長)、調整後EBITDA成長率中1桁台を見込んでいます。リストラ計画により年間ランレート7,500万-1億ドルの削減を目標とし、2025年末までに5,000万ドル超を達成済みです。
投資家の懸念:
一方で、第2四半期のEPSミスにより株価が下落し、52週安値60.56ドルに接近しました。為替変動、インフレ、景気後退が業績に悪影響を与えており、収益コストと営業費用の管理が困難な状況です。北米歯科市場でPatterson Dental、Benco Dentalと競合し、医療製品流通ではMcKessonなど大手と競合しています。また、2023年にサイバーセキュリティインシデントが発生し、製造・流通事業の一部が一時的に中断しました。
2. ヘンリー・シャインの事業内容・成長戦略
(1) 主力事業
ヘンリー・シャインの主力事業は以下の3つのセグメントに分かれています:
1. Global Distribution and Value-Added Services(108億ドル)
歯科・医療製品のディストリビューション事業です。歯科診療所、病院、クリニックに対して、診療チェア、インプラント、画像診断装置、消耗品などを卸売りしています。歯科事業が全体の約60%を占め、医療事業が約25%を占めています。
2. Global Specialty Products(14億ドル)
専門製品事業です。歯科インプラント、歯科矯正製品、エンドドン製品(根管治療)、動物医療製品などを提供しています。動物医療事業は全体の約15%を占めています。
3. Global Technology(6億ドル)
テクノロジー事業です。Practice Management Software(診療所向け業務管理ソフトウェア)、デジタルイメージング、CAD/CAM(コンピュータ支援設計・製造)、3Dプリンターなどを提供しています。クラウドベースの顧客が前年比20%増加し、デジタル変革が進んでいます。
(2) セクター・業種の説明
ヘンリー・シャインは、セクターとして「Health Care(ヘルスケア)」、業種として「Health Care Providers & Services(ヘルスケアプロバイダー・サービス)」に分類されます。
ヘルスケアディストリビューターの特性:
ヘルスケアディストリビューターは、医療・歯科製品を医療従事者に卸売りする流通業者です。高齢化社会での医療需要拡大、デジタルデンタル機器(CAD/CAM、3Dプリンター)の普及が成長ドライバーとなっています。一方で、医療費抑制政策、Amazon等のオンライン競合参入、サプライチェーンコスト増がリスク要因です。
(3) ビジネスモデルの特徴
ヘンリー・シャインの最大の特徴は、以下のビジネスモデルです:
世界最大のヘルスケアディストリビューター:
歯科・医療製品の卸売りにおいて、世界最大のスケールメリットを持っています。グローバル展開により、仕入れコストを削減し、幅広い製品ポートフォリオを提供しています。日本では、米国Henry Schein社と日本のモリタ社が50%ずつ出資した合弁企業(ヘンリーシャインジャパン、2016年設立、連結売上高約160億円)を運営しています。
高成長・高マージンビジネスへのシフト:
ソフトウェア、専門製品、サービスへのポートフォリオシフトにより、高成長・高マージンビジネスの比率を拡大しています。2024年に営業利益の41%を高成長・高マージン事業から創出しました。
3. 競合との差別化
(1) 主要競合企業
ヘンリー・シャインの主要競合企業は以下の通りです:
歯科製品市場:
- Patterson Companies: 北米の歯科製品ディストリビューター2位
- Benco Dental: 北米の歯科製品ディストリビューター3位
医療製品流通市場:
- McKesson: 米国最大の医療用品ディストリビューター
- Cardinal Health: 米国2位の医療用品ディストリビューター
(2) 競合優位性
ヘンリー・シャインの競合優位性は以下の3点です:
1. 世界最大のスケールメリット
世界最大のヘルスケアディストリビューターとして、仕入れコストを削減し、幅広い製品ポートフォリオを提供しています。
2. 高成長・高マージンビジネスへのシフト
ソフトウェア、専門製品、サービスへのポートフォリオシフトにより、2024年に営業利益の41%を高成長・高マージン事業から創出しました。
3. デジタル変革
クラウドベースPractice Management顧客が前年比20%増加し、デジタル化を推進しています。
(3) 市場でのポジショニング
ヘンリー・シャインは、ヘルスケアセクターのディストリビューターとして、以下のポジショニングを確立しています:
- 世界最大のヘルスケアディストリビューター: 歯科(60%)、医療(25%)、動物医療(15%)の多角化した事業ポートフォリオ
- 高成長・高マージンへのシフト: BOLD+1戦略により、ソフトウェア、専門製品、サービスへの転換を推進
- KKRとのパートナーシップ: KKRが12%の株式を保有し、オペレーション改善を支援
4. 財務・配当の実績
(1) 売上高・利益の推移
ヘンリー・シャインの財務実績は以下の通りです(2025年第1四半期決算、2025年5月発表):
2025年Q1:
- GAAP純利益: 1.1億ドル(希薄化後EPS 0.88ドル)
- Non-GAAP純利益: 1.43億ドル(希薄化後EPS 1.15ドル)
- 営業キャッシュフロー: 3,700万ドル
2025年通期ガイダンス:
- 売上成長率: 2-4%
- Non-GAAP EPS: 4.80-4.94ドル(前年比1-4%成長)
- 調整後EBITDA成長率: 中1桁台
(出典: Henry Schein Inc 10-Q 2025 Q1, SEC EDGAR)
(2) 配当履歴
ヘンリー・シャインの配当実績:
- 配当利回り: 約1%前後(株価により変動、2025年10月時点)
- 増配実績: あり(詳細は公式IRページで確認)
配当利回りは約1%前後と低めですが、増配実績があります。
配当の税金(日本人投資家の場合):
米国株の配当は、米国で10%の源泉税、日本で20.315%の二重課税が発生します。外国税額控除を利用することで、米国で課税された10%を日本の所得税から差し引くことができます。
(出典: 国税庁「外国税額控除」、SBI証券「米国株の税金ガイド」)
(3) 財務健全性
ヘンリー・シャインの財務健全性:
- 営業キャッシュフロー: 3,700万ドル(2025年Q1)
- リストラ計画: 年間ランレート7,500万-1億ドルの削減を目標(2025年末までに5,000万ドル超を達成済み)
5. リスク要因
(1) 事業リスク
EPSミス:
第2四半期のEPSミスにより株価が下落し、52週安値60.56ドルに接近しました。
(2) 市場環境リスク
為替変動・インフレによるコスト増:
為替変動、インフレにより、収益コストと営業費用の管理が困難な状況です。
(3) 規制・競争リスク
激しい競争環境:
Patterson Dental、Benco Dental、McKessonなど大手と競合しています。
サイバーセキュリティリスク:
2023年にサイバー攻撃により製造・流通業務の一部が一時的に中断しました。
為替リスク:
日本人投資家にとって、為替リスク(ドル円の変動)は重要な考慮事項です。
6. まとめ:投資判断のポイント
(1) この銘柄の強み
ヘンリー・シャイン(HSIC)の強みは以下の3点です:
1. 世界最大のヘルスケアディストリビューター
歯科(60%)、医療(25%)、動物医療(15%)の多角化した事業ポートフォリオを持っています。
2. 高成長・高マージンビジネスへのシフト
2024年に営業利益の41%を高成長・高マージン事業から創出しました。
3. KKRとのパートナーシップ
KKRが12%の株式を保有し、オペレーション改善を支援しています。
(2) リスク要因(再掲)
1. 為替変動・インフレによるコスト増
収益コストと営業費用の管理が困難な状況です。
2. 激しい競争環境
Patterson Dental、McKessonなど大手と競合しています。
3. サイバーセキュリティリスク
2023年にサイバー攻撃により製造・流通業務の一部が一時的に中断しました。
(3) 向いている投資家
ヘンリー・シャインは以下のような投資家に向いています:
1. ヘルスケアセクターの安定性と成長性を重視する投資家
高齢化社会での医療需要拡大により、安定収益を見込めます。
2. KKRとのパートナーシップによるオペレーション改善に期待する投資家
2026年初頭から成果創出を見込んでいます。
3. 長期保有型の投資家
配当利回りは1%前後と低めですが、長期的なEPS成長に期待できます。
免責事項:
本記事は情報提供を目的としており、個別銘柄の推奨や投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
Q: ヘンリー・シャインの配当利回りは?
A: 約1%前後です(2025年10月時点)。配当貴族銘柄ほど高配当ではありませんが、増配実績があります。2025年通期のNon-GAAP EPSは4.80-4.94ドルのガイダンスを発表しています。詳細は本文「4. 財務・配当の実績」を参照してください。
Q: ヘンリー・シャインの主な競合は?
A: 歯科製品市場ではPatterson Companies、Benco Dental、医療製品流通ではMcKesson、Cardinal Healthと競合しています。ヘンリー・シャインは世界最大のヘルスケアディストリビューターとして、歯科(60%)・医療(25%)・動物医療(15%)の多角化した事業ポートフォリオで差別化しています。詳細は本文「3. 競合との差別化」を参照してください。
Q: ヘンリー・シャインのリスク要因は?
A: 為替変動・インフレによるコスト増、激しい競争環境(Patterson Dental、McKessonなど)、2023年に発生したサイバーセキュリティインシデントがリスクです。詳細は本文「5. リスク要因」を参照してください。
Q: ヘンリー・シャインは長期投資に向いている?
A: ヘルスケアセクターの安定性と成長性を重視する投資家、KKRとのパートナーシップによるオペレーション改善に期待する投資家に向いています。一方、配当利回りは1%前後と低めであり、高配当を求める投資家には不向きです。投資判断はご自身でご検討ください。詳細は本文「6. まとめ:投資判断のポイント」を参照してください。