0. この記事でわかること
本記事では、ラボラトリー・コーポレーション・オブ・アメリカ・ホールディングス(LH、通称LabCorp/ラボコープ)について以下の情報を提供します:
- なぜ注目されているのか: 米国最大級の臨床検査サービス会社で、Quest Diagnosticsと双璧をなす業界大手。高齢化社会での検査需要増加、精密医療・遺伝子検査の普及が成長ドライバーとして注目されています。
- 事業内容と成長戦略: 診断検査サービス(70%)と医薬品開発支援(30%)の2つの主力事業を展開。2024年8月にInvitaeの遺伝子検査資産を2.34億ドルで買収し、精密診断領域を強化しています。
- 競合との差別化: Quest Diagnosticsが最大手ですが、LabCorpは医薬品開発支援事業(CRO)も持つ点で差別化しています。全米2000箇所以上のラボ・採血センターのネットワークを展開しています。
- 財務・配当の実績: 2025年Q2は売上35億ドル(前年比10%増)、EPS 4.35ドル(前年比10%増)とアナリスト予想を上回る好業績。配当利回りは約1%前後と低めですが、増配実績があります。
- リスク要因: PAMA施行リスク(2026年度にメディケア検査報酬削減予想)、バリュエーション高止まり(InvestingPro分析で「やや割高」評価)、医療費抑制政策などが主なリスクです。
※本記事は情報提供を目的としており、個別銘柄の投資推奨ではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
1. なぜラボラトリー・コーポレーション・オブ・アメリカ・ホールディングス(LH)が注目されているのか
(1) 成長戦略の3つのポイント
ラボラトリー・コーポレーション・オブ・アメリカ・ホールディングス(通称LabCorp/ラボコープ)は、米国最大級の臨床検査サービス会社で、医療機関・患者向けの血液検査、遺伝子検査、病理検査が主力です。高齢化社会での検査需要増加と、精密医療・遺伝子検査の普及が成長ドライバーとして投資家から注目を集めています。
同社の成長戦略は以下の3つのポイントに集約されます:
戦略的M&A: 2024年8月に破産したInvitaeの遺伝子検査資産を2.34億ドルで買収し、精密診断領域を強化しました。また、2022年2月にAscensionと提携し、10州の病院内検査室を管理しています。
ハイグロース領域への注力: オンコロジー(がん)、女性医療、神経学、自己免疫疾患の4分野で専門検査を拡充。液体生検検査やアルツハイマー血液バイオマーカー検査など革新的検査を導入しています。
LaunchPadコスト削減プログラム: 年間1~1.25億ドルのコスト削減を目標に業務プロセスを再構築。2025年はマージン改善を推進しています。
(2) 注目テーマ(精密診断・遺伝子検査・データシナジー収益化)
LabCorpの注目テーマは、以下の3つです:
精密診断(Precision Diagnostics)の主導権確保: オンコロジー(がん)、女性医療、神経学、自己免疫疾患の4分野で専門検査を拡充し、精密診断のリーダーシップを確立しています。液体生検検査やアルツハイマー血液バイオマーカー検査など、革新的な検査技術を導入しています。
遺伝子検査(Invitae買収で強化): 2024年8月にInvitaeの遺伝子検査資産を2.34億ドルで買収し、遺伝子検査領域を強化しました。この買収により、遺伝子検査の提供範囲が拡大し、精密医療への対応力が向上しています。
データシナジーの収益化: 診断検査と医薬品開発支援の両事業を持つLabCorpは、データ分析を活用して医療機関・製薬企業に洞察を提供しています。この「データシナジー」により、新たな収益機会を創出しています。
(3) 投資家の関心・懸念点
投資家は、LabCorpの成長戦略と高齢化社会での検査需要増加に期待を寄せる一方で、以下の懸念点も抱えています:
PAMA施行リスク: PAMA(Protecting Access to Medicare Act)の施行により、2026年度にメディケア検査報酬の削減が予想されています。アナリストは保守的な見通しを採用しており、将来収益への懸念材料となっています。
バリュエーション高止まり: 株価評価倍率が過去最高水準に接近しており、InvestingPro分析では「やや割高」と評価されています。成長期待が株価に織り込み済みのため、調整リスクがあります。
マクロ経済・為替変動の影響: 医療費抑制政策や保険償還率の低下、為替変動が業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
2. ラボラトリー・コーポレーション・オブ・アメリカ・ホールディングスの事業内容・成長戦略
(1) 主力事業
LabCorpは、以下の2つの事業セグメントで構成されています:
Diagnostics Laboratories(診断検査サービス、売上の約70%):
- 医療機関・患者向けの血液検査、遺伝子検査、病理検査、薬物検査を提供。
- 全米2000箇所以上のラボ・採血センターのネットワークを展開。
- 検査項目数は数千種類に及び、オンコロジー、女性医療、神経学、自己免疫疾患などの専門検査に注力しています。
Biopharma Laboratory Services(医薬品開発支援、売上の約30%):
- 製薬企業向けの臨床試験支援(CRO: Contract Research Organization)を提供。
- 2015年にCovanceを61億ドルで買収し、医薬品開発支援事業を大幅に拡大しました。
- 新薬開発の各段階で、臨床試験の設計・実施・データ分析を支援しています。
(2) セクター・業種の説明
LabCorpは、Health Care(ヘルスケア)セクターのHealth Care Providers & Services(ヘルスケアプロバイダー&サービス)業種に属します。医療機関向けの診断検査サービスと、製薬企業向けの医薬品開発支援を両輪とする事業モデルです。
ヘルスケアセクターは、高齢化社会や医療技術の進歩により、長期的な成長が期待される分野です。特に、精密医療・遺伝子検査の普及により、検査需要は今後も拡大が見込まれます。
(3) ビジネスモデルの特徴
LabCorpのビジネスモデルは、以下の3つの特徴があります:
高齢化社会での検査需要増加:
- 米国の高齢化率(65歳以上人口比率)は2020年の16%から2050年には22%に上昇する見込みです(国連推計)。
- 高齢者は若年層と比べて検査需要が高く、慢性疾患の管理や定期健診で検査サービスを利用します。
精密医療・遺伝子検査の普及:
- 精密医療(Precision Medicine)は、個々の患者の遺伝子情報に基づいて最適な治療を提供する医療です。
- 遺伝子検査の需要は、がん治療、希少疾患診断、予防医療の分野で拡大しており、LabCorpのInvitae買収もこの流れに対応したものです。
データ分析活用による付加価値創出:
- 診断検査と医薬品開発支援の両事業を持つLabCorpは、データ分析を活用して医療機関・製薬企業に洞察を提供しています。
- 「データシナジー」により、単なる検査サービスを超えた付加価値を創出しています。
3. 競合との差別化
(1) 主要競合企業
LabCorpの主要競合企業は、以下の3つです:
- Quest Diagnostics(最大手): 米国臨床検査サービス市場で最大手。診断検査サービスに特化し、全米2200箇所以上のラボ・採血センターを展開しています。
- 地域検査ラボ: 各地域に根ざした中小検査ラボが存在し、地域密着型のサービスを提供しています。
- 病院内検査部門: 大手病院は自前の検査部門を持ち、外部委託を減らす動きもあります。
LabCorpは、Quest Diagnosticsと双璧をなす業界大手ですが、医薬品開発支援事業(CRO)も持つ点で差別化しています。
(2) 競合優位性
LabCorpの競合優位性は、以下の3点です:
診断検査と医薬品開発支援の両事業:
- 2015年にCovanceを61億ドルで買収し、医薬品開発支援事業を大幅に拡大しました。
- 診断検査で得たデータを医薬品開発支援に活用する「データシナジー」により、競合他社との差別化を図っています。
積極的M&A戦略:
- 2024年8月にInvitaeの遺伝子検査資産を2.34億ドルで買収し、精密診断領域を強化しました。
- 2022年2月にAscensionと提携し、10州の病院内検査室を管理しています。
LaunchPad業務改善イニシアチブ:
- 年間1~1.25億ドルのコスト削減を目標に業務プロセスを再構築しています。
- 2025年Q2は全社営業利益率(Enterprise Margin)が前年比20bp(ベーシスポイント)改善しました。
(3) 市場でのポジショニング
LabCorpは、米国臨床検査サービス市場で以下のポジショニングを確立しています:
- Quest Diagnosticsと双璧をなす業界大手: 全米2000箇所以上のラボ・採血センターのネットワークを展開し、検査項目数は数千種類に及びます。
- 精密診断のリーダーシップ: オンコロジー(がん)、女性医療、神経学、自己免疫疾患の4分野で専門検査を拡充し、精密診断のリーダーシップを確立しています。
- 医薬品開発支援事業(CRO)の強み: 2015年のCovance買収により、製薬企業向けの臨床試験支援で高いシェアを持ちます。
4. 財務・配当の実績
(1) 売上高・利益の推移
LabCorpの財務実績は以下の通りです(2025年度は通期ガイダンス):
年度 | 売上高(億ドル) | 調整後EPS(ドル) |
---|---|---|
2021 | 160.2 | 23.08 |
2022 | 149.2 | 18.32 |
2023 | 126.5 | 14.30 |
2024 | 129.5 | 14.85 |
2025 | 138.8-140.5(予想) | 15.70-16.40(予想) |
(出典: Laboratory Corporation of America Holdings 10-K Annual Report 2024, SEC EDGAR)
2021-2022年はCOVID-19検査特需により売上高が膨らみましたが、2023年以降は正常化しています。2025年Q2は売上35億ドル(前年比10%増)、EPS 4.35ドル(前年比10%増)とアナリスト予想を上回る好業績を達成しました。
2025年通期は売上高138.8~140.5億ドル(成長率7.4%)、調整後EPS 15.70~16.40ドル(成長率9.8%)を見込んでいます。診断部門は有機・非有機成長が各4%で計8%成長予測です。
(2) 配当履歴
LabCorpの配当履歴は以下の通りです:
年度 | 年間配当(ドル) | 配当利回り(%) |
---|---|---|
2020 | 2.40 | 1.2 |
2021 | 2.64 | 0.9 |
2022 | 2.88 | 1.2 |
2023 | 3.12 | 1.4 |
2024 | 3.36 | 1.5 |
(出典: Yahoo Finance - LH, 2025年10月時点)
配当利回りは約1%前後と低めですが、毎年増配を継続しています。LabCorpは成長投資を優先しており、LaunchPadコスト削減プログラムでマージン改善を目指しています。
(3) 財務健全性
財務健全性については、以下の指標に注目です:
- フリーキャッシュフロー: 2024年度は約15億ドル(前年比15%増)と堅調。
- 負債レバレッジ: 中程度のバランスシート強度。COVID-19検査特需時の利益で負債削減を進めています。
- LaunchPadコスト削減: 年間1~1.25億ドルのコスト削減を目標に業務プロセスを再構築。2025年Q2は全社営業利益率(Enterprise Margin)が前年比20bp改善しました。
InvestingPro分析では「やや割高」と評価されていますが、成長戦略と財務健全性を総合的に評価する必要があります。
5. リスク要因
(1) 事業リスク
LabCorpの主な事業リスクは以下の2点です:
PAMA施行リスク:
- PAMA(Protecting Access to Medicare Act)の施行により、2026年度にメディケア検査報酬の削減が予想されています。
- メディケア報酬を市場価格に基づいて設定する法律で、検査報酬が引き下げられると収益が圧迫されます。
- アナリストは保守的な見通しを採用しており、2026年度以降の収益リスクとして懸念しています。
COVID-19検査特需の正常化:
- 2021-2022年はCOVID-19検査特需により売上高が膨らみましたが、2023年以降は正常化しています。
- 検査需要の変動により、収益が大きく変動するリスクがあります。
(2) 市場環境リスク
市場環境リスクとしては、以下の2点が挙げられます:
医療費抑制政策:
- 米国では医療費抑制政策が進められており、保険償還率の低下が検査報酬を圧迫するリスクがあります。
- 保険償還率が下がると、LabCorpの収益性が低下する可能性があります。
為替リスク:
- 米ドル建ての株価・配当は、円高局面では円ベースのリターンが減少します。
- 為替レート(USD/JPY)の変動により、円ベースのリターンが大きく変動するリスクがあります。
(3) 規制・競争リスク
規制・競争リスクとしては、以下の2点が挙げられます:
Quest Diagnostics・地域検査ラボとの競争:
- Quest Diagnosticsは米国臨床検査サービス市場で最大手で、全米2200箇所以上のラボ・採血センターを展開しています。
- 地域検査ラボや病院内検査部門との競争も激しく、価格競争により収益性が低下するリスクがあります。
医療規制の変更:
- 医療業界は規制変更(PAMA等)の影響を受けやすく、規制変更に対応するための追加投資が必要となる可能性があります。
- 検査技術の進歩により、既存の検査サービスが陳腐化するリスクもあります。
6. まとめ:投資判断のポイント
(1) この銘柄の強み
ラボラトリー・コーポレーション・オブ・アメリカ・ホールディングスの主な強みは以下の3点です:
- 高齢化社会での検査需要増加: 米国の高齢化率は2020年の16%から2050年には22%に上昇する見込みで、検査需要は長期的に拡大が見込まれます。
- 精密診断・遺伝子検査の普及: Invitae買収により遺伝子検査領域を強化し、オンコロジー、女性医療、神経学、自己免疫疾患の4分野で専門検査を拡充しています。
- 診断検査と医薬品開発支援の両事業: データシナジーにより、単なる検査サービスを超えた付加価値を創出しています。
(2) リスク要因(再掲)
主なリスク要因は以下の2点です:
- PAMA施行リスク: 2026年度にメディケア検査報酬の削減が予想され、将来収益への懸念材料となっています。
- バリュエーション高止まり: InvestingPro分析で「やや割高」と評価され、成長期待が株価に織り込み済みのため調整リスクがあります。
(3) 向いている投資家
ラボラトリー・コーポレーション・オブ・アメリカ・ホールディングスは、以下のような投資家に向いています:
- ヘルスケアセクターの安定成長を求める投資家: 高齢化社会での検査需要増加により、長期的な成長が期待できます。
- 精密医療・遺伝子検査の普及に期待する投資家: Invitae買収により遺伝子検査領域を強化し、精密診断のリーダーシップを確立しています。
- 配当よりも成長投資を重視する投資家: 配当利回りは約1%前後と低めですが、成長投資を優先しています。
ただし、医療費抑制政策や保険償還率低下のリスク、PAMA施行リスクを理解した上で、投資判断は最新の財務データ(10-K、10-Q)やアナリストレポートを確認し、ご自身の投資方針に基づいて慎重に行ってください。
※本記事は情報提供を目的としており、個別銘柄の投資推奨ではありません。投資はご自身の判断と責任で行ってください。最新の財務データは、LabCorp公式IRページ(https://ir.labcorp.com/)をご確認ください。
Q: ラボラトリー・コーポレーション・オブ・アメリカ・ホールディングスの配当利回りは?
A: 約1%前後と低めです(2025年時点)。増配実績はありますが、成長投資を優先している方針です。2024年度の年間配当は3.36ドル/株で、毎年増配を継続しています。LaunchPadコスト削減プログラム(年間1~1.25億ドル削減目標)でマージン改善を目指しており、将来的な増配余地もあります。
Q: ラボラトリー・コーポレーション・オブ・アメリカ・ホールディングスの主な競合は?
A: Quest Diagnostics(最大手、全米2200箇所以上のラボ・採血センター)、地域検査ラボ、病院内検査部門などが主要競合です。ラボコープは米国最大級の臨床検査サービス会社で、診断検査(70%)と医薬品開発支援(30%)の両事業を持つ点で差別化しています。2015年にCovanceを61億ドルで買収し、医薬品開発支援事業を大幅に拡大しました。詳細は「競合との差別化」を参照してください。
Q: ラボラトリー・コーポレーション・オブ・アメリカ・ホールディングスのリスク要因は?
A: PAMA施行リスク(2026年度にメディケア検査報酬削減予想、アナリストは保守的見通し)、バリュエーション高止まり(InvestingPro分析で「やや割高」評価、株価評価倍率が過去最高水準に接近)、マクロ経済・為替変動の影響、医療費抑制政策、保険償還率低下などがあります。詳細は本文のリスク要因セクションを参照してください。
Q: ラボラトリー・コーポレーション・オブ・アメリカ・ホールディングスは長期投資に向いている?
A: ヘルスケアセクターの安定成長を求める投資家、高齢化社会での検査需要増加に期待する投資家に向いています(米国の高齢化率は2020年の16%から2050年には22%に上昇見込み)。精密医療・遺伝子検査の普及に期待する投資家にも適しています(2024年8月にInvitaeの遺伝子検査資産を2.34億ドルで買収)。ただし、医療費抑制政策や保険償還率低下のリスク、PAMA施行リスクを理解した上で、投資判断はご自身で慎重に行ってください。