0. この記事でわかること
本記事では、アナログ・デバイセズ(ADI)について以下の情報を提供します:
- なぜ注目されているのか: 産業セグメントが前年比23%増、AI駆動インテリジェント・エッジで二桁成長を達成し、売上総利益率68.8%の高収益モデルを実現しています
- 事業内容と成長戦略: アナログ半導体(A/Dコンバータ、電源管理IC、センサー信号処理)に特化し、産業・自動車・通信の3分野でシステムレベルのソリューションを提供しています
- 競合との差別化: Texas Instruments、Infineon、NXP Semiconductorsなどとは異なり、2021年のMaxim Integrated買収でポートフォリオを拡大し、包括的なソリューションで差別化しています
- 財務・配当の実績: 2025年度第3四半期の売上28.8億ドル(前年比25%増)、20年以上連続増配、フリーキャッシュフローの100%を株主還元する方針です
- リスク要因: 関税リスク(25%の関税でフェアバリューが10-20%低下の可能性)、中国のダンピング調査、CEO株式売却(保有株の46%)に注意が必要です
1965年創業のアナログ半導体メーカーで、デジタル半導体(エヌビディアのGPU、インテルのCPU)とは異なる領域に特化しています。自動車(ADAS、EV)、産業機械、通信インフラで安定需要があります。
1. なぜアナログ・デバイセズ(ADI)が注目されているのか
(1) 成長戦略の3つのポイント
アナログ・デバイセズは以下の3つの成長戦略で投資家の注目を集めています。
ハイブリッド製造モデルへの投資
数十億ドルを投資し、内部・外部サイトで生産能力を柔軟に調整するハイブリッド製造モデルを構築しています。2021年のMaxim Integrated買収後、オレゴン工場に10億ドル投資で生産能力を倍増し、2025年末までに米国・欧州で生産を倍増予定です(出典: Manufacturing Dive)。地域的な供給ショックから保護し、柔軟性を向上させています。
AI駆動インテリジェント・エッジへの注力
産業、自動車、通信セグメントでAI関連製品の需要増加に対応し、データセンター向けアプリケーションでも大きな成果を獲得しています(出典: Investing.com SWOT Analysis)。AI・データセンター向けアプリケーションで注目を集め、産業・通信セグメントでAI関連製品の需要が増加しています。
戦略的M&Aによる事業拡大
2014年にHittite、2017年にLinear Technology、2021年にMaxim Integratedを買収し、製品ラインナップを拡大しました。Maxim買収により2027年までに追加で10億ドルの事業創出を見込んでいます(出典: JPMorgan Strategic Growth Outlook)。買収による成長が主要ドライバーとなっています。
(2) 注目テーマ(AI駆動インテリジェント・エッジ・産業オートメーション・自動車EV/ADAS)
投資家が注目する3つのテーマは以下の通りです。
AI駆動インテリジェント・エッジ
産業、自動車、通信セグメントでAI関連製品の需要が増加しています。データセンター向けアプリケーションでも大きな成果を獲得しており、AI・インテリジェント・エッジが成長ドライバーとなっています(出典: Investing.com SWOT Analysis)。
産業オートメーション
産業セグメントが売上の45%を占め、前期比12%増、前年比23%増で、航空防衛・オートメーション・AIインフラが牽引しています(出典: TradingView Q2 Earnings)。産業スマート化、工場デジタル化が重点領域です(出典: アメリカ株ドットコム)。
自動車(EV、ADAS、自動運転)
自動車向けでは、ADAS(先進運転支援システム)、EV用バッテリー管理システム、自動運転技術などに使用されています。2025年に自動車事業が記録的な年を迎える見込みです(出典: JPMorgan Strategic Growth Outlook)。
(3) 投資家の関心・懸念点
関心点
- モルガン・スタンレーが目標株価を$212から$273に引き上げ、市場の可能性に自信を示しています(出典: Investing.com SWOT Analysis)。
- みんかぶ株価目標$234.37で【買い】評価、証券アナリスト予想は【割安】判断です(出典: みんかぶ)。
- 2025年度に8-10%の売上成長、長期的には売上CAGR 7-10%、EPS CAGR 10-11%で2027年までにEPS $15達成を目標にしています(出典: JPMorgan Strategic Growth Outlook)。
- フリーキャッシュフローの100%を株主還元(40-60%を配当、残りを自社株買い)する方針です(出典: JPMorgan Strategic Growth Outlook)。
懸念点
- 自動車事業の前年比24%成長は、トランプ政権の関税を見越した前倒し需要が主因で、持続可能性に懸念があります(出典: The Motley Fool)。
- 25%の関税が自動車セクターに適用され、フェアバリューが10-20%低下する可能性があります(出典: The Motley Fool)。
- CEO Vincent Rocheが508万ドル相当の株式を売却(保有株の46%)、インサイダー買い戻しなしです(出典: The Motley Fool)。
- フォワードPER 28.21倍とS&P500の18.9倍を大幅に上回り、「著しく割高」と評価されています(出典: The Motley Fool)。
- 中国商務省が米国からのアナログ半導体輸入に対するダンピング調査を開始しました(米国の輸出規制への報復措置)(出典: moomoo)。
2. アナログ・デバイセズの事業内容・成長戦略
(1) 主力事業
アナログ・デバイセズは以下の主力事業を展開しています。
産業セグメント(45%)
産業スマート化、工場デジタル化、航空防衛、オートメーション、AIインフラなどに使用されています。2025年度第3四半期に売上の45%を占め、前期比12%増、前年比23%増で成長しています(出典: TradingView Q2 Earnings)。最も収益性が高いセグメントです(出典: JPMorgan Strategic Growth Outlook)。
自動車セグメント(約40%)
ADAS(先進運転支援システム)、EV用バッテリー管理システム、自動運転技術などに使用されています。2025年に自動車事業が記録的な年を迎える見込みです(出典: JPMorgan Strategic Growth Outlook)。
通信セグメント(約20%)
5G通信インフラ、基地局、データセンター向けアプリケーションなどに使用されています。AI関連製品の需要が増加しています(出典: Investing.com SWOT Analysis)。
その他(医療等)
病院外医療モニタリング、バッテリー監視技術などが重点領域です(出典: アメリカ株ドットコム)。
(2) セクター・業種の説明
アナログ・デバイセズはInformation Technology(情報技術)セクターのSemiconductors & Semiconductor Equipment(半導体・半導体装置)業種に属します。
アナログ半導体は、現実世界の信号(音、光、温度等)をデジタル信号に変換するA/Dコンバータ、電源管理IC、センサー信号処理ICなどを指します。デジタル半導体(エヌビディアのGPU、インテルのCPU)とは異なる領域で、比較的値動きが穏やかなディフェンシブ銘柄とされています。
アナログ半導体市場は約1000億ドル、ADIがフォーカスする市場は約500億ドルの規模です(出典: みんかぶ)。
(3) ビジネスモデルの特徴
システムレベルでの包括的なソリューション
単なる半導体デバイスではなく、システムレベルでの包括的なソリューション・プラットフォーム形成を目指しています(出典: アメリカ株ドットコム)。顧客企業の課題解決に寄り添う姿勢が強みです。
ハイブリッド製造モデル
内部・外部サイトで生産能力を調整し、今後数年で売上の70%を確保します。TSMCとのパートナーシップを拡大し、日本で先進的な300mm製造能力を確保しています(出典: Manufacturing Dive)。
M&Aによる成長
2014年にHittite、2017年にLinear Technology、2021年にMaxim Integratedを買収してポートフォリオを拡大しました(出典: アメリカ株ドットコム)。買収による成長が主要ドライバーとなっています(出典: moomoo)。
3. 競合との差別化
(1) 主要競合企業
アナログ半導体業界の主要競合企業は以下の通りです。
- Texas Instruments (TXN): アナログ半導体最大手、産業・自動車向けに強み
- Infineon: 欧州最大の半導体メーカー、自動車・産業向けに強み
- NXP Semiconductors: 自動車向け半導体に特化、セキュリティ技術に強み
- STMicroelectronics: 欧州半導体大手、MEMS(微小電気機械システム)に強み
(2) 競合優位性
アナログ・デバイセズの競合優位性は以下の点にあります。
システムレベルでの包括的なソリューション
単なる半導体デバイスではなく、システムレベルでの包括的なソリューション・プラットフォーム形成を目指しています(出典: アメリカ株ドットコム)。Texas Instrumentsが汎用品に強いのに対し、アナログ・デバイセズは高付加価値ソリューションで差別化しています。
M&Aによるポートフォリオ拡大
2021年のMaxim Integrated買収により、製品ラインナップを大幅に拡大し、2027年までに追加で10億ドルの事業創出を見込んでいます(出典: JPMorgan Strategic Growth Outlook)。
68.8%の売上総利益率
売上総利益率68.8%と高水準で、高付加価値製品に注力していることを示しています(出典: Investing.com SWOT Analysis)。
(3) 市場でのポジショニング
アナログ・デバイセズは、アナログ半導体のリーディングカンパニーとしてポジショニングされています。
全世界で約2.6万人の従業員、12.5万社超の顧客を擁し、工場デジタル化・モビリティ・デジタルヘルスケアで事業を展開しています(出典: みんかぶ)。Texas Instrumentsに次ぐ業界2位の地位を確立し、システムレベルのソリューションで差別化しています。
4. 財務・配当の実績
(1) 売上高・利益の推移
2025年度第3四半期の業績ハイライトは以下の通りです(出典: TradingView Q2 Earnings)。
- 売上: 28.8億ドル(前期比9%増、前年比25%増)、アナリスト予想を4.2%上回る
- 産業セグメント: 売上の45%を占め、前期比12%増、前年比23%増
2025年度第1四半期の実績(出典: TradingView Q2 Earnings)
- EPS: $1.63(予想$1.54を上回る)
- 売上: 24.2億ドル(予想23.6億ドルを上回る)
長期ガイダンス(出典: JPMorgan Strategic Growth Outlook)
項目 | 目標 |
---|---|
売上CAGR | 7-10% |
EPS CAGR | 10-11% |
2027年EPS目標 | $15 |
(2) 配当履歴
アナログ・デバイセズは20年以上連続増配を継続しています。
配当利回りは約2%前後で、配当貴族候補(25年以上連続増配)に近づいています。フリーキャッシュフローの100%を株主還元(40-60%を配当、残りを自社株買い)する方針です(出典: JPMorgan Strategic Growth Outlook)。
配当と自社株買いのバランスにより、株主価値を最大化する戦略を採用しています。
(3) 財務健全性
主要財務指標
- 売上総利益率: 68.8%(高水準)
- フォワードPER: 28.21倍(S&P500の18.9倍を上回る)
- フリーキャッシュフロー: 100%を株主還元
売上総利益率68.8%は高付加価値製品に注力していることを示しています。フォワードPER 28.21倍はS&P500の18.9倍を大幅に上回り、「著しく割高」と評価されていますが、成長性を織り込んだバリュエーションと言えます(出典: The Motley Fool)。
※2025年10月時点のデータです。最新情報はAnalog Devices公式IRページをご確認ください。
(出典: Analog Devices 10-K 2024, SEC EDGAR)
5. リスク要因
(1) 事業リスク
関税リスク
自動車事業の前年比24%成長は、トランプ政権の関税を見越した前倒し需要が主因で、持続可能性に懸念があります。25%の関税が自動車セクターに適用され、フェアバリューが10-20%低下する可能性があります(出典: The Motley Fool)。
中国のダンピング調査
中国商務省が米国からのアナログ半導体輸入に対するダンピング調査を開始しました(米国の輸出規制への報復措置)(出典: moomoo)。米中貿易摩擦が激化すると、中国市場での売上に影響を受ける可能性があります。
半導体需要の周期的変動
半導体業界は需要の周期的変動が大きく、景気後退時には売上が減少するリスクがあります。事業サイクルを意識する必要があります(出典: moomoo)。
(2) 市場環境リスク
インサイダー売却
CEO Vincent Rocheが508万ドル相当の株式を売却(保有株の46%)、インサイダー買い戻しなしです(出典: The Motley Fool)。経営陣の将来見通しに対する懸念が示唆されています。
高いバリュエーション
フォワードPER 28.21倍とS&P500の18.9倍を大幅に上回り、「著しく割高」と評価されています(出典: The Motley Fool)。株価が下落するリスクがあります。
為替リスク(USD/JPY)
日本人投資家にとって、為替レートの変動は重要なリスク要因です。円高が進むとドル建ての株価が上昇しても円換算では損失が出る可能性があります。為替手数料も証券会社により異なるため(SBI証券:片道25銭等)、取引コストも考慮する必要があります。
(3) 規制・競争リスク
米中貿易摩擦
中国がアナログ半導体輸入のダンピング調査を開始しており、米中貿易摩擦が激化すると中国市場での売上に影響を受ける可能性があります(出典: moomoo)。
競争激化
Texas Instruments、Infineon、NXP Semiconductorsなどの大手競合との競争が激化すると、価格低下や市場シェアの縮小につながる可能性があります。
社員レビューでの懸念
社員レビューでは成長戦略と製品開発投資への懸念が指摘されています(出典: moomoo)。内部の士気低下が業績に影響する可能性があります。
6. まとめ:投資判断のポイント
(1) この銘柄の強み
アナログ・デバイセズの主な強みは以下の3点です。
高い収益性と成長性
産業セグメントが前年比23%増、売上総利益率68.8%と高い収益性を実現しています。AI駆動インテリジェント・エッジで二桁成長を達成しており、長期的には売上CAGR 7-10%、EPS CAGR 10-11%を目標にしています。
システムレベルでの包括的なソリューション
単なる半導体デバイスではなく、システムレベルでの包括的なソリューション・プラットフォーム形成を目指し、顧客企業の課題解決に寄り添う姿勢が強みです。
20年以上連続増配
配当貴族候補(25年以上連続増配)に近づいており、フリーキャッシュフローの100%を株主還元(40-60%を配当、残りを自社株買い)する方針で、株主価値を最大化しています。
(2) リスク要因(再掲)
主なリスク要因は以下の2点です。
関税リスクと中国のダンピング調査
25%の関税が自動車セクターに適用され、フェアバリューが10-20%低下する可能性があります。中国がアナログ半導体輸入のダンピング調査を開始しており、米中貿易摩擦が激化すると影響を受ける可能性があります。
インサイダー売却と高いバリュエーション
CEOが保有株の46%を売却し、フォワードPER 28.21倍と「著しく割高」と評価されています。株価が下落するリスクがあります。
(3) 向いている投資家
以下のような投資家に向いている銘柄と考えられます。
配当を重視する長期投資家
20年以上連続増配を継続しており、配当貴族候補に近づいています。配当利回りは約2%前後で、フリーキャッシュフローの100%を株主還元する方針です。
半導体セクター・ディフェンシブ成長株に関心がある投資家
アナログ半導体は比較的値動きが穏やかなディフェンシブ銘柄で、自動車・産業機械・通信インフラで安定需要があります。デジタル半導体(エヌビディアのGPU)とは異なる領域に投資したい投資家に適しています。
AI・産業オートメーションの成長に期待する投資家
AI駆動インテリジェント・エッジで二桁成長を達成しており、産業スマート化・工場デジタル化が重点領域です。AI・産業オートメーションの成長に投資したい投資家に向いています。
免責事項
本記事は情報提供を目的としており、個別銘柄の推奨を行うものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。財務データは2025年10月時点のものであり、最新情報は公式IRページをご確認ください。
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※為替リスクや外国税額控除については、別コラムで詳しく解説しています。