0. この記事でわかること
本記事では、KLAテンコール(KLAC)について以下の情報を提供します:
- なぜ注目されているのか: 半導体検査・計測装置で世界トップシェア(市場シェア50%超)を誇り、先端半導体製造に不可欠な存在。AI・先進パッケージング需要の拡大により、2025年度(6月期)は売上121.6億ドル(前年比24%増)を達成しました。
- 事業内容と成長戦略: プロセス制御・歩留まり管理装置のリーダーとして、ウェハ検査、欠陥検出、膜厚測定などの技術で半導体製造の微細化を支援。先進パッケージング事業は前年比85%増の9.25億ドル超に拡大しています。
- 競合との差別化: アプライド・マテリアルズやラムリサーチなどの競合と比べて、検査・計測装置に特化した技術的優位性が特徴です。
- 財務・配当の実績: 営業利益率30%超の高収益体質で、2025年度は純利益40.6億ドルを達成。配当利回りは0.75-0.85%と低めですが、6年連続で増配(2025年は前年比12%増の$7.60)しています。
- リスク要因: 中国輸出規制、グローバル関税、半導体設備投資サイクル、為替リスクなどがあります。
1. なぜKLAテンコール(KLAC)が注目されているのか
(1) 成長戦略の3つのポイント
KLAテンコールは、以下の3つの柱で成長戦略を展開しています:
先進パッケージング事業の急拡大: 2025年の先進パッケージング関連売上高は9.25億ドル超(従来予想8.5億ドルから上方修正、前年5億ドル超から85%増)となる見込みです。複数のチップを高密度で組み合わせる先進パッケージング技術は、AI・データセンター向け半導体で需要が急増しており、KLAの検査装置が不可欠となっています。
AI・ハイバンドメモリ投資の取り込み: 2025年通期で前年比24%の売上成長を達成し、AI インフラ構築における半導体資本設備の重要な役割を担っています。GPU・AI加速器向けのハイバンドメモリ(HBM)製造には、KLAの高精度検査装置が必須です。
戦略的M&Aによる技術拡大: 2019年にOrbotechを買収し、プリント基板・フラットパネルディスプレイ・パッケージング分野に進出。1997年のTencor買収で検査・計測ソリューションを統合し、半導体製造プロセス全体をカバーする総合的なソリューションを提供しています。
(2) 注目テーマ(AI・先進パッケージング・サービス事業)
投資家が注目するテーマとして、以下の3点があります:
- e-beam検査技術の進化: シングルビーム・マルチビームシステムで、Gate-All-Around(GAA)技術に対応。直接e-beam検査市場の成長を牽引しており、3nm以下の最先端ノードでは光学検査だけでは不十分なため、e-beam検査が必須となっています。
- GPU ベースアーキテクチャ: 20-30ギガピクセルのデータ処理を低コストで実現する先進センサー・カメラ技術を開発。検査速度と精度を両立し、顧客の製造効率向上に貢献しています。
- サービス事業の安定成長: 52四半期連続で前年同期比成長を達成。2025年Q4は前年比14%増の7.03億ドル、通期で28億ドル超となりました。装置の保守・メンテナンス・アップグレードによる安定収益が、景気サイクルの影響を緩和しています。
(3) 投資家の関心・懸念点
関心点:
- 記録的な業績: 2025年度Q4の調整後EPSは$9.38で、アナリスト予想$8.54を9.84%上回りました。通期売上121.6億ドル、調整後EPS $30.37は市場予想を大幅に超えています。
- 長期成長余地: アナリスト35名の平均目標株価は$800(レンジ$590-$900)で、長期的には$1,075までの上昇余地があるとの見方もあります。半導体微細化の進展により、検査装置需要は長期的に拡大すると予想されます。
懸念点:
- 中国輸出規制の影響: 2025年の中国売上は前年比15-20%減、約5億ドルの減収見込み。中国市場は売上の30%を占めるため、規制強化が継続すると業績に大きな影響が出ます。
- グローバル関税の影響: 四半期ごとに粗利率100ベーシスポイントの下方圧力があり、2025年通期で約4億ドルの影響が試算されています。
- 株価水準の割高感: InvestingPro分析では現在の株価水準が割高との指摘があり、テクニカル指標が買われすぎを示唆しています。
2. KLAテンコールの事業内容・成長戦略
(1) 主力事業
KLAテンコールは、以下の3つの主力事業を展開しています:
- ウェハ検査装置: 半導体製造プロセスにおいて、ウェハ上の欠陥(異物、パターン不良等)を検出する装置。光学検査とe-beam検査を組み合わせ、ナノメートルレベルの微細な欠陥を検出します。
- 計測装置: 膜厚、線幅、オーバーレイ(重ね合わせ精度)などを計測する装置。製造プロセスが設計通りに進んでいるかを確認し、歩留まりを向上させます。
- サービス事業: 装置の保守・メンテナンス、アップグレード、スペアパーツ供給などを提供。52四半期連続で成長を続ける安定収益源です。
(2) セクター・業種の説明
KLAテンコールは、情報技術(Information Technology)セクターの半導体・半導体製造装置(Semiconductors & Semiconductor Equipment)業種に分類されます。半導体製造装置は、半導体チップを製造するための機械・装置を提供する産業であり、エッチング、成膜、露光、検査・計測など工程ごとに専門企業が存在します。KLAは検査・計測装置に特化し、技術的な参入障壁が極めて高い分野でトップシェアを誇ります。
(3) ビジネスモデルの特徴
KLAテンコールのビジネスモデルは、以下の3点が特徴です:
- 装置販売とサービスの両輪: 新規装置の販売に加え、保守・メンテナンス・アップグレードによる継続的な収益を確保。サービス事業は52四半期連続成長を続け、景気サイクルの影響を緩和しています。
- 技術的な参入障壁: 検査・計測装置は、ナノメートルレベルの精度が要求され、光学・電子ビーム・データ処理・AI技術の複合的な知見が必要です。長年の開発とノウハウ蓄積により、市場シェア50%超を確立しています。
- 顧客との密接な関係: TSMC、サムスン、インテル等のトップファウンドリと長期的なパートナーシップを構築。顧客の新製品開発段階から参画し、次世代プロセスに対応した装置を共同開発しています。
3. 競合との差別化
(1) 主要競合企業
KLAテンコールの主な競合企業は以下の3社です:
- アプライド・マテリアルズ(Applied Materials, AMAT): 半導体製造装置の世界最大手。成膜、エッチング、イオン注入など幅広い工程の装置を提供。売上規模はKLAの約2倍です。
- ラムリサーチ(Lam Research, LRCX): エッチングと成膜装置で強みを持つ大手。売上規模はKLAと同程度です。
- 東京エレクトロン(Tokyo Electron, 8035.T): 日本の半導体製造装置大手。成膜、塗布・現像、エッチング装置などで世界シェアを持ちます。
(2) 競合優位性
KLAテンコールの競合優位性は、以下の3点にあります:
- 検査・計測装置への特化: アプライド・マテリアルズやラムリサーチは成膜・エッチングなど製造装置が中心ですが、KLAは検査・計測装置に特化。市場シェア50%超を誇り、技術的な優位性が高い分野です。
- 微細化の進展が追い風: 半導体の微細化(3nm、2nm、GAA等)が進むほど、欠陥検出の難易度が上がり、KLAの高精度検査装置の需要が増加します。微細化が進むほど同社のビジネスが拡大する構造です。
- サービス事業の安定性: 52四半期連続成長を続けるサービス事業により、新規装置販売の変動を緩和。長期的な顧客関係と継続収益を確保しています。
(3) 市場でのポジショニング
KLAテンコールは、半導体検査・計測装置の世界トップシェア企業として位置づけられています。アプライド・マテリアルズやラムリサーチと比べて規模は小さいものの、検査・計測という技術的に参入障壁が高い分野でニッチトップを確立。営業利益率30%超の高収益体質により、ROE(自己資本利益率)も高水準を維持しています。
4. 財務・配当の実績
(1) 売上高・利益の推移
KLAテンコールの過去5年間の財務データは以下の通りです(単位: 億ドル、会計年度は6月期):
年度 | 売上高 | 純利益 | 調整後EPS |
---|---|---|---|
2021 | 66.9 | 19.8 | $13.84 |
2022 | 97.0 | 30.5 | $21.04 |
2023 | 98.1 | 31.3 | $22.27 |
2024 | 98.3 | 32.7 | $23.80 |
2025 | 121.6 | 40.6 | $30.37 |
※2025年度決算(10-K FY2025、2025年8月8日提出)より。2025年度は前年比24%の売上成長を達成し、AI・先進パッケージング需要が牽引しました。
(出典: KLA Corporation 10-K FY2025, SEC EDGAR)
(2) 配当履歴
KLAテンコールの配当実績は以下の通りです:
- 年間配当: $7.60(四半期$1.90)
- 配当利回り: 0.75-0.85%(2025年10月時点、株価により変動)
- 連続増配年数: 6年連続で増配(2020年$4.80→2025年$7.60、年平均10%増)
- 配当性向: 22.27%(調整後EPSベース)で、配当成長余力が大きい
配当利回りは0.75-0.85%と低めですが、KLAは利益成長と株主還元(配当+自社株買い)のバランスを重視しています。配当性向が低いため、長期的な増配が期待できます。
(出典: stockanalysis.com, 2025年10月)
(3) 財務健全性
KLAテンコールの財務健全性は以下の通りです:
- 営業利益率: 33.4%(2025年度、高水準を維持)
- ROE(自己資本利益率): 50%超(高効率な資本活用)
- フリーキャッシュフロー(FCF): 安定して創出(配当+自社株買いの原資)
- 株主還元: 2025年度は配当$7.60と自社株買いで積極的に還元
強固なバランスシートと高収益体質により、長期的な成長投資と株主還元の両立が可能です。
(出典: KLA Corporation 2025年度決算プレスリリース)
※2025年10月時点のデータです。最新情報はKLA Corporation公式IRページをご確認ください。
5. リスク要因
(1) 事業リスク
- 中国輸出規制の影響: 2025年の中国売上は前年比15-20%減、約5億ドルの減収見込み。中国市場は売上の30%を占めるため、規制強化が継続すると業績に大きな影響が出ます。米国政府の対中輸出規制は今後も強化される可能性があります。
- 半導体設備投資サイクル: 半導体市場はシクリカル(景気循環的)な特性があり、WFE(ウェハファブ設備)投資の増減により業績が大きく変動します。景気後退期には半導体メーカーの設備投資が減少し、KLAの売上も減少する傾向があります。
- 微細化の限界リスク: 半導体の微細化が物理的・経済的な限界に達すると、KLAの検査装置需要が鈍化する可能性があります。ただし、先進パッケージングなど新たな技術領域で需要が拡大しており、このリスクは現時点では限定的です。
(2) 市場環境リスク
- グローバル関税の影響: 四半期ごとに粗利率100ベーシスポイントの下方圧力があり、2025年通期で約4億ドルの影響が試算されています。米中貿易摩擦の激化や保護主義的な政策により、関税負担が増加する可能性があります。
- 地政学リスク: 台湾(TSMC)、韓国(サムスン)への売上依存度が高く、地政学的な緊張が高まると顧客の設備投資に影響が出ます。
- 為替リスク: グローバル展開により、ドル高は海外売上の評価額を減少させる要因となります。日本人投資家にとっては、円高により円ベースでの配当・株価評価が減少するリスクがあります。
(3) 規制・競争リスク
- 技術競争の激化: 検査装置市場は技術的な参入障壁が高いものの、アプライド・マテリアルズ等の大手が検査装置事業を強化する可能性があります。
- 顧客の内製化リスク: TSMC、サムスン等の大手ファウンドリが検査装置を内製化する可能性があります。ただし、技術的な難易度が高いため、このリスクは現時点では限定的です。
- 税制変更リスク: 米国・日本の税制変更により、配当の源泉徴収税率や外国税額控除の仕組みが変わる可能性があります。執筆時点(2025年)の税率は米国10%、日本20.315%です。
6. まとめ:投資判断のポイント
(1) この銘柄の強み
- 半導体検査装置のトップシェア: 市場シェア50%超を誇り、技術的な参入障壁が極めて高い分野で圧倒的な地位を確立。半導体微細化の進展により、検査装置需要は長期的に拡大すると予想されます。
- AI・先進パッケージング需要: 先進パッケージング事業は前年比85%増の9.25億ドル超に拡大。AI・データセンター向け半導体需要の拡大を取り込んでいます。
- 高収益体質と株主還元: 営業利益率30%超、ROE 50%超の高収益体質で、6年連続増配(2025年は前年比12%増)を継続。配当性向22.27%と低く、長期的な増配余力が大きいです。
(2) リスク要因(再掲)
- 中国輸出規制の影響: 売上の30%を占める中国市場で15-20%減収の見込み。
- グローバル関税の影響: 粗利率100bps下方圧力、通期で約4億ドルの影響試算。
(3) 向いている投資家
- 半導体業界の長期成長を信じる投資家: AI・データセンター・IoT等の長期的な半導体需要拡大を見込み、半導体製造装置業界に投資したい投資家に向いています。
- 高収益・高成長企業を求める投資家: 営業利益率30%超、ROE 50%超の高収益体質と、前年比24%の売上成長を評価する投資家に適しています。
- 配当成長を重視する投資家: 配当利回りは0.75-0.85%と低めですが、6年連続で年平均10%増配しており、長期的な配当成長を重視する投資家に向いています。配当性向が低いため、増配余力が大きいです。
免責事項: 本記事は情報提供を目的としており、個別銘柄の推奨や投資助言を行うものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。半導体製造装置業界には半導体設備投資サイクル、中国輸出規制、グローバル関税、地政学リスク、為替リスク、税制の違いがあります。最新の財務データや税制については、公式IRページや国税庁の情報をご確認ください。
Q: KLAテンコールの配当利回りは?
A: 約0.75-0.85%です(2025年10月時点、年間配当$7.60、株価により変動)。配当利回りは低めですが、6年連続増配(2020年$4.80→2025年$7.60、年平均10%増)を継続しており、長期的な配当成長が期待できます。配当性向は22.27%(調整後EPSベース)と低く、増配余力が大きい点が魅力です。KLAは利益成長と株主還元(配当+自社株買い)のバランスを重視しており、インカムゲインよりもキャピタルゲインと配当成長を重視する投資家に適しています。
Q: KLAテンコールの主な競合は?
A: アプライド・マテリアルズ、ラムリサーチ、東京エレクトロン等の半導体製造装置メーカーです。KLAは検査・計測装置に特化し、市場シェア50%超で差別化しています。アプライド・マテリアルズは成膜・エッチングなど製造装置が中心で売上規模は約2倍ですが、KLAは検査装置という技術的に参入障壁が高い分野でトップシェアを確立。ラムリサーチはエッチングと成膜装置が強く、売上規模はKLAと同程度です。東京エレクトロンは日本の半導体製造装置大手で、成膜・塗布・現像・エッチング装置で世界シェアを持ちます。
Q: 半導体製造装置業界の成長ドライバーは?
A: AI・データセンター向け半導体需要、先進パッケージング技術、ハイバンドメモリ(HBM)投資の3つが主要な成長ドライバーです。KLAは2025年度に売上121.6億ドル(前年比24%増)を達成し、AI インフラ構築における半導体資本設備の重要な役割を担っています。先進パッケージング関連売上は9.25億ドル超(前年比85%増)に拡大し、GPU・AI加速器向けのHBM製造にはKLAの高精度検査装置が必須となっています。半導体の微細化(3nm、2nm、GAA等)が進むほど、欠陥検出の難易度が上がり、KLAの検査装置需要が増加する構造です。
Q: KLAテンコールは長期投資に向いている?
A: 半導体微細化の進展により検査装置需要が拡大し、長期的な成長が期待できます。AI・データセンター・IoT等の長期的な半導体需要拡大を見込む投資家に向いています。ただし、半導体設備投資サイクルの影響を受けるため、景気変動に注意が必要です。景気後退期にはWFE(ウェハファブ設備)投資が減少し、KLAの売上も減少する傾向があります。中国輸出規制(売上の30%が中国市場、2025年は15-20%減収見込み)とグローバル関税(粗利率100bps下方圧力)が短期的な懸念ですが、長期的にはAI・先進パッケージング需要が成長を牽引すると期待されます。