S&P500

アプライド・マテリアルズ (AMAT)

Applied Materials Inc

0. この記事でわかること

本記事では、アプライド・マテリアルズ(AMAT)について以下の情報を提供します:

  • なぜ注目されているのか: 世界最大級の半導体製造装置メーカーとして、AI・データセンター・5G等の半導体需要拡大で成長期待。半導体チップを製造する工場(ファブ)に装置を納入し、エヌビディア(チップ設計)や東京エレクトロン(装置メーカー)とは異なる立ち位置です
  • 事業内容と成長戦略: 半導体製造装置(売上の7割超)が主力。Gate-All-Around(GAA)技術の売上を2024年の25億ドルから2025年に50億ドルへ倍増、パッケージング事業を30億ドル以上に倍増、Applied Global Services(AGS)で年間2桁成長を目指しています
  • 競合との差別化: 東京エレクトロン、ASML、Lam Researchと競合。前工程のほぼ全プロセスをカバーする業界最広範な製品群、22,000件以上の特許保有、顧客のPPACt(消費電力・性能・面積コスト・市場投入時間)改善能力が強みです
  • 財務・配当の実績: 2025年度Q3売上73億ドル(前年比8%増)、非GAAP EPS 2.48ドル(前年比17%増)。配当利回り約0.8-1%で連続増配を継続しています
  • リスク要因: 中国向け輸出規制(2025年度Q4で1.1億ドル、2026年度で6億ドル売上減見込み)、ICAPS(IoT・通信・自動車・パワー・センサー)セグメントの投資減速、非GAAPフリーキャッシュフローの前年比74%減が主なリスクです

※この記事は情報提供を目的としており、投資助言ではありません。投資判断は自己責任で行ってください。

1. なぜアプライド・マテリアルズ(AMAT)が注目されているのか

(1) 成長戦略の3つのポイント

アプライド・マテリアルズは、半導体製造装置市場でのリーダーシップを維持しながら、次世代技術への投資を加速させています。

第一に、Gate-All-Around(GAA)技術の売上倍増計画です。GAAは次世代トランジスタ構造技術で、従来のFinFET(Fin Field-Effect Transistor)に比べて消費電力を削減し、性能を向上させます。アプライドは、GAA技術の売上を2024年の25億ドルから2025年に50億ドルへ倍増させる計画を進めています(出典: 業界レポート)。サムスン電子やTSMCがGAA技術を採用した先端チップの量産を開始しており、アプライドの装置需要が急拡大しています。

第二に、パッケージング事業の倍増戦略です。半導体チップの性能向上には、チップ製造だけでなく、複数のチップを組み合わせるパッケージング技術も重要です。アプライドは、パッケージング事業を今後数年で30億ドル以上に倍増させる戦略的投資を実施しています(出典: Applied Materials Q3 2025 Earnings Report)。特に、AI・高性能コンピューティング向けの先端パッケージング技術(バックサイドパワー等)で需要が高まっています。

第三に、Applied Global Services(AGS)セグメントの成長です。AGSは、装置の保守・部品供給・アップグレードサービスを提供するセグメントで、60億ドル規模の事業です。アプライドは、AGSで年間2桁成長を目指し、サービス収益の70%をサブスクリプション型長期契約に移行しています(出典: Applied Materials Investor Relations)。装置販売は半導体サイクルに影響されますが、サービス収益は安定した収益源となります。

(2) 注目テーマ(AI・半導体製造装置市場)

投資家がアプライド・マテリアルズに注目する最大の理由は、AI・高性能コンピューティング向け半導体製造装置の需要急拡大です。エヌビディアのGPU(Graphics Processing Unit)、AMDのAIチップ、インテルのデータセンター向けCPU(Central Processing Unit)などのAIチップ需要が急増しており、これらのチップを製造する工場(TSMC、サムスン電子、インテル等)が製造装置への投資を拡大しています。

また、先端DRAM・HBM(High Bandwidth Memory)製造技術も注目されています。HBMは、AI・高性能コンピューティング向けの高帯域メモリで、GPUとの組み合わせで使われます。アプライドの先端DRAM顧客からの売上が2025年度に約50%増加する見込みです(出典: Applied Materials Announces Third Quarter 2025 Results)。

バックサイドパワー・先端パッケージング技術も成長ドライバーです。バックサイドパワーは、チップの裏側に電源配線を配置することで、性能を向上させる技術です。アプライドは、この分野で先行しており、顧客の製品性能改善に貢献しています。

世界半導体製造能力の拡大も追い風です。2025年に世界の半導体製造能力が7%増加し、先端チップ生産は17%増加すると予測されています(出典: Applied Materials Q3 2025 Earnings Report)。半導体製造能力の拡大は、製造装置への投資増加を意味します。

(3) 投資家の関心・懸念点

投資家の関心は、「AI・先端半導体製造の需要持続性」と「中国向け輸出規制の影響」に集中しています。2025年度は6年連続の増収を達成する見込みで、AI・先端半導体製造の需要拡大が追い風となっています。アナリストコンセンサスは「Moderate Buy(やや買い)」で、目標株価は198.80ドル(最高240ドル)と、現在の株価から約10-20%の上昇余地があります(出典: MarketBeat)。

一方で、懸念点も多くあります。中国向け輸出規制が最大の懸念です。米商務省の2025年9月29日規則により、中国向け輸出が制限拡大され、2025年度Q4で1.1億ドル、2026年度で6億ドルの売上減少が見込まれています(出典: Applied Materials Plunges 8% Post Q1 Earnings)。中国市場は売上の約3分の1を占めるため、規制の影響は大きいです。

また、ICAPS(IoT・通信・自動車・パワー・センサー)セグメントの投資減速も懸念されています。産業機械・自動車向け半導体の一部で需要が低迷しており、このセグメントの成長が鈍化しています(出典: Bloomberg「米アプライド、売上高見通しが市場予想下回る-輸出規制がリスク」)。

**非GAAPフリーキャッシュフローの前年比74%減(5.44億ドルに低下)**も懸念材料です。営業キャッシュフロー/株が前年比-6.55%、純利益成長率-11.20%と、一部の財務指標が悪化しています(出典: Applied Materials Plunges 8% Post Q1 Earnings)。

アプライド・マテリアルズは、長期的にはAI・半導体需要拡大で成長が見込まれますが、短期的には中国規制とICAPSセグメントの減速が課題です。投資家は、AI需要の持続性と中国規制の動向を注視する必要があります。

2. アプライド・マテリアルズの事業内容・成長戦略

(1) 主力事業(半導体製造装置)

アプライド・マテリアルズは1967年創業の半導体製造装置メーカーです。半導体製造装置とは、シリコンウェーハ(薄い円盤状のシリコン基板)上に回路を形成するための装置です。半導体チップの製造には、数百の工程があり、アプライドはそのうちの前工程(ウェーハ上に回路を形成する工程)のほぼ全プロセスをカバーしています。

アプライド・マテリアルズの主力製品は以下の3つです:

  1. 半導体製造装置(Semiconductor Systems、売上の7割超): 成膜(薄膜を形成)、エッチング(回路を削る)、イオン注入(不純物を注入)、検査・計測などの装置を提供します。顧客は、TSMC(台湾)、サムスン電子(韓国)、インテル(米国)などの大手半導体メーカーです
  2. ディスプレイ製造装置(Applied Global Services): 有機EL(OLED)ディスプレイの製造装置を提供します。スマートフォン、テレビ向けのディスプレイ製造に使われます
  3. サービス(Applied Global Services、AGS): 装置の保守・部品供給・アップグレードサービスを提供します。装置販売は半導体サイクルに影響されますが、サービス収益は安定した収益源です

アプライドの顧客は、TSMC、サムスン電子、インテルなどの大手半導体メーカー(ファウンドリ、メモリメーカー、IDM)です。これらの顧客は、エヌビディアのGPU、アップルのAシリーズチップ、クアルコムの5Gチップなどを製造しています。アプライドは、顧客のチップ性能を向上させる装置を提供することで、半導体産業全体の成長を支えています。

(2) セクター・業種の説明

アプライド・マテリアルズはInformation Technology(情報技術)セクターSemiconductors & Semiconductor Equipment(半導体・半導体製造装置)業種に分類されます。この業種は、半導体チップ(エヌビディア、AMD等)、半導体製造装置(アプライド、東京エレクトロン等)、半導体材料(信越化学等)を含みます。

半導体業種の特徴は、半導体サイクル(好不況の波)の影響を受けやすいことです。景気が良い時期や、スマートフォン・PC・データセンターの需要が高い時期には、半導体メーカーが製造装置への投資を拡大します。逆に、景気が悪化すると、装置投資が減少します。2020-2021年はCOVID-19パンデミックによるデジタル化で装置投資が急増しましたが、2022-2023年は景気減速で投資が鈍化しました。

一方で、長期的には半導体需要が拡大傾向にあります。AI、データセンター、自動運転車、5G通信、IoT(Internet of Things)などの新技術により、半導体需要が継続的に増加しています。世界の半導体製造能力は、今後も拡大する見込みです。

また、半導体業種は技術革新が重要です。半導体チップの性能を向上させるためには、製造装置の技術革新が不可欠です。アプライドは、R&D(研究開発)に年間約30億ドルを投資し、GAA技術、バックサイドパワー、先端パッケージング技術などの次世代技術を開発しています。

(3) ビジネスモデルの特徴

アプライド・マテリアルズのビジネスモデルの最大の特徴は、前工程のほぼ全プロセスをカバーする業界最広範な製品群です。半導体製造には、成膜、エッチング、イオン注入、検査・計測など、多数の工程があります。アプライドは、これらの工程のほぼすべてに対応する装置を提供しており、顧客(TSMC、サムスン電子等)はアプライドをワンストップで利用できます(出典: PR TIMES「アプライド マテリアルズ イノベーションを加速して長期的な利益成長を促す独自の強みを紹介」)。

また、顧客のPPACt(消費電力・性能・面積コスト・市場投入時間)改善能力も強みです。半導体チップの性能を向上させるには、消費電力を削減し、性能を向上させ、チップサイズを小型化し、コストを削減し、市場投入時間を短縮する必要があります。アプライドは、これらの指標を改善する装置を提供することで、顧客の競争力を高めています。

さらに、サブスクリプション型サービス収益の拡大も重要です。Applied Global Services(AGS)では、装置の保守・部品供給をサブスクリプション型長期契約で提供しています。サービス収益の70%を長期契約に移行することで、装置販売のサイクル変動に左右されない安定した収益基盤を構築しています。

22,000件以上の特許保有も競争優位性です。米国・日本を含む世界で特許を保有し、技術的な参入障壁を築いています(出典: Decoding Applied Materials Inc (AMAT): A Strategic SWOT Insight)。

3. 競合との差別化

(1) 主要競合企業

アプライド・マテリアルズの主要競合企業は以下の通りです:

  1. 東京エレクトロン(Tokyo Electron、日本): 日本最大の半導体製造装置メーカー。成膜、エッチング、洗浄装置で強みを持ちます。世界シェアはアプライドに次ぐ2位です
  2. ASML(オランダ): 露光装置(リソグラフィ)で世界シェア100%近くを持つ独占企業。EUV(極端紫外線)露光装置で先端チップ製造を支配しています
  3. Lam Research(米国): エッチング装置、成膜装置で強みを持つ。アプライドと製品が一部重複しますが、エッチング装置ではLamが優位な分野もあります
  4. KLA Corporation(米国): 検査・計測装置で世界トップシェア。半導体チップの欠陥検査、膜厚測定などに使われます

これらの競合企業は、それぞれ特定の工程(露光、エッチング、検査等)で強みを持ちます。アプライドは、前工程のほぼ全プロセスをカバーする点で他社と差別化しています。

(2) 競合優位性

アプライド・マテリアルズの競合優位性は、前工程のほぼ全プロセスをカバーする業界最広範な製品群です。顧客(TSMC、サムスン電子等)は、複数の装置メーカーから装置を購入する必要がありますが、アプライドは成膜、エッチング、イオン注入、検査・計測など、多数の工程に対応する装置を提供しているため、顧客にとってワンストップで利用できるメリットがあります(出典: PR TIMES)。

第二に、顧客のPPACt改善能力です。アプライドは、顧客のチップ性能を向上させる技術開発に注力しており、消費電力削減、性能向上、チップサイズ小型化、コスト削減、市場投入時間短縮を実現する装置を提供しています。これにより、顧客はアプライドの装置を使うことで競争力を高められます。

第三に、22,000件以上の特許保有です。米国・日本を含む世界で特許を保有し、技術的な参入障壁を築いています。特に、GAA技術、バックサイドパワー、先端パッケージング技術などの次世代技術で特許を保有しており、競合が簡単に真似できない優位性があります。

第四に、R&D投資の規模です。2023年のR&D支出は31.02億ドルで、イノベーションに重点投資しています(出典: Decoding Applied Materials Inc (AMAT): A Strategic SWOT Insight)。東京エレクトロンやLam ResearchもR&Dに投資していますが、アプライドの規模は業界トップクラスです。

(3) 市場でのポジショニング

アプライド・マテリアルズは、世界最大級の半導体製造装置メーカーとしてポジショニングされています。世界市場シェアは約20-25%で、東京エレクトロン(約15-20%)、ASML(露光装置で独占)と並ぶトップ3の一角です(出典: 業界推計)。

アプライドは、先端チップ製造装置のリーダーとしても認知されています。GAA技術、HBM製造技術、バックサイドパワー技術などの先端技術で、TSMC、サムスン電子、インテルなどの大手顧客と密接に協力しています。先端チップ生産は2025年に17%増加する見込みで、アプライドはこの成長の恩恵を受けています。

また、グローバル展開も強みです。北米、アジア(台湾、韓国、日本、中国)、欧州でビジネスを展開しており、地域ごとの需要変動リスクを分散しています。ただし、中国向け輸出規制により、中国市場でのシェアが減少するリスクがあります。

一方で、露光装置ではASMLに劣位です。EUV露光装置は、先端チップ製造に不可欠ですが、ASMLが独占しています。アプライドは露光装置を手がけていないため、この分野ではASMLに依存しています。

4. 財務・配当の実績

(1) 売上高・利益の推移

アプライド・マテリアルズの財務状況は、半導体サイクルに影響されますが、近年は安定した成長を維持しています。以下は過去5年の売上高・利益の推移です(出典: Applied Materials Inc. 2024 Form 10-K Annual Report; Yahoo Finance):

年度 売上高(億ドル) 純利益(億ドル) EPS(ドル)
2020 172 40 4.42
2021 230 59 6.52
2022 256 66 7.52
2023 267 71 8.22
2024 273(推定) 73(推定) 8.37(推定)

2020-2024年は、COVID-19パンデミック後のデジタル化、AI需要の拡大により、安定した増収増益を実現しました。

2025年度Q3の決算では、売上73億ドル(前年比8%増)、非GAAP EPS 2.48ドル(前年比17%増)と、好調な結果となりました(出典: Applied Materials Announces Third Quarter 2025 Results)。営業キャッシュフローは26億ドル(売上比36%)で、社歴2位の水準です。非GAAPグロスマージンは48.9%(前年比+150bp)と、利益率も改善しています。

2025年度は6年連続の増収を達成する見込みで、AI・先端半導体製造の需要拡大が追い風となっています。ただし、2025年度Q2売上ガイダンスは71億ドルと、市場予想72.2億ドルを下回り、中国規制の影響が懸念されています(出典: Bloomberg「米アプライド、売上高見通しが市場予想下回る-輸出規制がリスク」)。

アナリストは、利益成長率年率8.8%を予測しています(出典: MarketBeat)。GAA技術、HBM製造技術、先端パッケージング技術などの次世代技術が成長ドライバーとなる見込みです。

(2) 配当履歴

アプライド・マテリアルズは、配当貴族候補として連続増配を継続しています。配当利回りは約0.8-1%で、高配当銘柄ではありませんが、安定配当と成長の両立を目指しています(出典: Yahoo Finance)。

過去5年の配当履歴は以下の通りです:

年度 年間配当(ドル) 配当性向(%) 配当利回り(%)
2020 0.88 19.9 0.7
2021 0.96 14.7 0.6
2022 1.04 13.8 0.9
2023 1.12 13.6 0.8
2024 1.20(推定) 14.3(推定) 0.8

配当性向は10-20%台と低めで、配当の持続性は非常に高いと評価できます。また、自社株買戻しも積極的に行っており、2024年度までにFCFの80-100%を株主還元する目標を掲げています(出典: PR TIMES)。

配当を重視する投資家にとって、アプライドは安定配当と成長の両立を目指す魅力的な選択肢です。ただし、配当利回りは約0.8-1%と低めのため、高配当を求める投資家には向いていません。

(3) 財務健全性

アプライド・マテリアルズの財務健全性は、以下の指標で評価できます(2024年時点、出典: Applied Materials Inc. 2024 Form 10-K Annual Report):

  • 自己資本比率: 約50%(健全な水準)
  • 有利子負債: 約60億ドル
  • 現金・現金同等物: 約80億ドル
  • フリーキャッシュフロー(FCF): 約70-80億ドル(健全)

アプライドは、財務健全性が非常に高い企業です。現金が豊富でFCFが安定しているため、財務リスクは低いと評価できます。R&D投資、M&A、株主還元の余力もあり、成長投資を継続できる財務基盤を持っています。

ただし、2025年度は非GAAPフリーキャッシュフローが前年比74%減(5.44億ドルに低下)しており、一時的な悪化が見られます(出典: Applied Materials Plunges 8% Post Q1 Earnings)。これは、中国規制の影響や一部セグメントの減速が原因と見られます。

財務健全性は「非常に良好」と評価できます。健全なバランスシートと豊富な現金により、長期的な成長投資と株主還元の両立が可能です。

5. リスク要因

(1) 事業リスク(中国向け輸出規制)

アプライド・マテリアルズの最大のリスクは、中国向け輸出規制です。米商務省の2025年9月29日規則により、中国向け輸出が制限拡大され、2025年度Q4で1.1億ドル、2026年度で6億ドルの売上減少が見込まれています(出典: Applied Materials Plunges 8% Post Q1 Earnings)。中国市場は売上の約3分の1を占めるため、規制の影響は非常に大きいです。

中国向け輸出規制は、米国の対中技術政策の一環で、先端半導体製造装置の中国への輸出を制限しています。規制が強化されれば、アプライドの中国向け売上がさらに減少するリスクがあります。

また、中国の自国製装置への切り替えもリスクです。中国政府は、半導体の自給率向上を目指しており、中国国内の装置メーカー(北方華創等)を支援しています。中国の半導体メーカーが自国製装置に切り替えれば、アプライドの中国市場シェアが減少します。

(2) 市場環境リスク(半導体サイクル)

半導体サイクルの変動は、アプライドにとって大きなリスクです。半導体需要は、景気、スマートフォン・PC販売、データセンター投資などに影響されます。景気が後退すれば、半導体需要が減少し、半導体メーカーの装置投資も減少します。

2022-2023年は、景気減速とスマートフォン・PC販売の低迷により、半導体需要が減速しました。2024-2025年は、AI需要の拡大により半導体需要が回復しましたが、今後も景気後退リスクがあります。

また、ICAPS(IoT・通信・自動車・パワー・センサー)セグメントの投資減速もリスクです。産業機械・自動車向け半導体の一部で需要が低迷しており、このセグメントの成長が鈍化しています(出典: Bloomberg「米アプライド、売上高見通しが市場予想下回る-輸出規制がリスク」)。

非GAAPフリーキャッシュフローの悪化も懸念材料です。2025年度は前年比74%減(5.44億ドルに低下)しており、営業キャッシュフロー/株が前年比-6.55%、純利益成長率-11.20%と、一部の財務指標が悪化しています(出典: Applied Materials Plunges 8% Post Q1 Earnings)。

(3) 規制・競争リスク

競合の激化は、アプライドにとってリスクです。東京エレクトロン、ASML、Lam Researchなどの競合が、技術革新と価格競争でシェア拡大を図っています。特にASMLは、EUV露光装置で独占的地位を持ち、アプライドが参入できない分野を支配しています。

また、技術変化リスクも考慮すべきです。半導体製造技術は急速に進化しており、GAA技術、バックサイドパワー、先端パッケージング技術などの新技術が登場しています。アプライドが技術革新に遅れれば、競合にシェアを奪われるリスクがあります。

顧客集中リスクも無視できません。アプライドの顧客は、TSMC、サムスン電子、インテルなど、少数の大手半導体メーカーに集中しています。これらの顧客が装置投資を削減すれば、アプライドの売上が大きく減少します。

地政学リスクも考慮すべきです。米中対立、台湾海峡の緊張、サプライチェーン分断などが、アプライドのビジネスに影響を与える可能性があります。特に、TSMCが台湾に集中しているため、台湾海峡の緊張が高まれば、顧客の装置投資が減少するリスクがあります。

6. まとめ:投資判断のポイント

(1) この銘柄の強み

アプライド・マテリアルズの強みは、以下の3点です:

  1. 前工程のほぼ全プロセスをカバーする業界最広範な製品群: 成膜、エッチング、イオン注入、検査・計測など、多数の工程に対応する装置を提供しており、顧客にとってワンストップで利用できるメリットがあります。22,000件以上の特許保有により、技術的な参入障壁を築いています
  2. AI・先端半導体製造の需要拡大: GAA技術、HBM製造技術、バックサイドパワー技術などの次世代技術で需要が急拡大しています。世界の半導体製造能力は2025年に7%増加し、先端チップ生産は17%増加する見込みです
  3. 安定した財務と株主還元: 配当利回り約0.8-1%で連続増配を継続。FCFの80-100%を株主還元する目標を掲げており、配当と自社株買戻しで株主還元を重視しています

(2) リスク要因(再掲)

一方で、以下のリスクに注意が必要です:

  1. 中国向け輸出規制: 2025年度Q4で1.1億ドル、2026年度で6億ドル売上減見込み。中国市場は売上の約3分の1を占めるため、規制の影響は大きいです
  2. 半導体サイクルの変動とICAPSセグメントの減速: 景気後退や一部セグメントの需要低迷により、装置投資が減少するリスクがあります

(3) 向いている投資家

アプライド・マテリアルズは、以下のような投資家に向いています:

  1. AI・半導体需要拡大を信じる投資家: AI、データセンター、5G、自動運転車などの新技術により、半導体需要が長期的に拡大すると信じる投資家に向いています。半導体サイクルの変動に耐えられる長期視点が必要です
  2. 配当と成長の両立を求める投資家: 配当利回り約0.8-1%で、配当貴族候補として安定配当を提供。同時に、AI・先端半導体製造で成長も期待できます
  3. 半導体産業チェーンの上流に投資したい投資家: エヌビディアはGPUチップを設計し、アプライドはそのチップを製造する工場に装置を納入します。半導体産業チェーンの上流に投資することで、チップメーカーとは異なるリスク・リターンプロファイルを得られます

向いていない投資家:

  • 高配当利回りを求める投資家(配当利回り約0.8-1%と低め)
  • 短期的な高成長を期待する投資家(半導体サイクルの影響を受ける)
  • 中国リスクを避けたい投資家(中国市場が売上の約3分の1)

免責事項: この記事は情報提供を目的としており、個別銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。最新の財務データは、アプライド・マテリアルズ公式IRページ(https://ir.appliedmaterials.com/)やSEC EDGAR(https://www.sec.gov/edgar)でご確認ください。

※2025年10月時点の情報です。半導体市場や財務状況は変動するため、投資前に最新情報をご確認ください。

よくある質問

Q1アプライド・マテリアルズの配当利回りは?

A1約0.8-1%です(2025年10月時点)。アプライドは配当貴族候補として連続増配を継続しており、安定配当を重視する投資家に人気です。配当性向は10-20%台と低めで、配当の持続性は非常に高いと評価できます。また、自社株買戻しも積極的に行っており、FCFの80-100%を株主還元する目標を掲げています。

Q2アプライド・マテリアルズの主な競合は?

A2東京エレクトロン(日本、世界シェア2位)、ASML(オランダ、露光装置で独占)、Lam Research(米国、エッチング・成膜装置)などです。アプライドは前工程のほぼ全プロセスをカバーする業界最広範な製品群が強みです。22,000件以上の特許を保有し、技術的な参入障壁を築いています。

Q3アプライド・マテリアルズのリスク要因は?

A3主なリスクは、中国向け輸出規制(2025年度Q4で1.1億ドル、2026年度で6億ドル売上減見込み)、半導体サイクルの変動、ICAPS(IoT・通信・自動車・パワー・センサー)セグメントの投資減速です。中国市場は売上の約3分の1を占めるため、規制の影響は大きいです。詳細は本文のリスク要因セクションを参照してください。

Q4アプライド・マテリアルズは長期投資に向いている?

A4AI・データセンター・5G等の半導体需要拡大を信じる投資家に向いています。半導体サイクルの変動に耐えられる長期視点が必要です。世界の半導体製造能力は2025年に7%増加し、先端チップ生産は17%増加する見込みで、長期的な成長余地があります。投資判断はご自身で行ってください。

Q5エヌビディアとアプライド・マテリアルズの違いは?

A5エヌビディアはGPUチップを設計する企業で、アプライドはそのチップを製造する工場(TSMC等)に製造装置を納入する企業です。エヌビディアは半導体産業チェーンの川下(チップ設計)、アプライドは川上(装置提供)に位置し、産業チェーン上の異なる位置にあります。両社は補完的な関係で、どちらも半導体産業の成長に不可欠です。