0. この記事でわかること
本記事では、ディア・アンド・カンパニー(DE)について以下の情報を提供します:
- なぜ注目されているのか: 今後10年間で200億ドルの米国投資を発表し、精密農業・自律走行技術で業界をリード。2030年までにサブスクリプション売上50億ドル(売上の10%)を目指す成長戦略が投資家の関心を集めています。
- 事業内容と成長戦略: 世界最大の農業機械メーカー(John Deereブランド)として、トラクター・コンバイン・建設機械を展開。R&D投資22億ドルでAI・ロボティクス技術に集中投資し、「農機メーカー」から「テクノロジーカンパニー」へ変貌を遂げています。
- 競合との差別化: 1,500超のディーラーネットワーク(競合クボタは1,200)と約100年の農家との信頼関係が強み。精密農業での先行者優位を活かし、完全自律走行トラクター「8R」を量産開始しています。
- 財務・配当の実績: 54年連続配当実績を誇り、厳しい市場環境下でも配当を維持。2025年は減収減益が見込まれますが、設備事業の営業利益率12.6%を維持しています。
- リスク要因: 農作物価格下落・高金利・関税政策による需要減リスク。シクリカル(景気循環)銘柄特性で短期的には株価上昇余地が限定的です。
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1. なぜディア・アンド・カンパニー(DE)が注目されているのか
(1) 成長戦略の3つのポイント
ディア・アンド・カンパニーは、長期成長に向けた積極的な投資戦略で注目されています。
1. 米国への200億ドル投資 2025年、CEO John Mayは今後10年間で米国に200億ドルを投資し、新工場建設と施設アップグレードを実施すると発表しました。この投資により、サブスクリプション・SaaS売上を2030年までに売上の10%(50億ドル)に引き上げる目標を掲げています。従来の機械販売モデルから、Solutions as a Serviceモデル(使用した技術のみ支払い)への移行を加速させる計画です。
2. 精密農業(スマート農業)での先行者優位 2025年にSentera買収で精密農業の先行者優位を強化しました。電動トラクター市場は2034年までにCAGR 29.3%で92億ドル規模に成長する見込みで、ディアは自律走行・電動・ハイブリッド機種を展開しています。2017年にはBlue River Technology(AI・機械学習で除草剤使用量90%削減)、2023年にはSmart Apply(精密薬剤スプレー技術)を買収し、統合テクノロジースタックで顧客の生産性・収益性・持続可能性を向上させています。
3. R&D投資22億ドルで技術革新を加速 2023年のR&D投資は22億ドル(前年比13%増)で、自律走行・ロボティクス・AIに集中投資しています。完全自律走行トラクター「8R」の量産を開始し、Leap Ambitions(飛躍目標)として顧客の生産システム全体を最適化し、経済価値と持続可能性を高める指標を設定しています。
(2) 注目テーマ(スマート農業・自律走行・電動化)
投資家が注目する3つのトレンドキーワードがあります。
スマート農業・精密農業 統合テクノロジースタックで生産性・収益性・持続可能性を向上させるスマート農業が注目されています。ディアは1,500超のディーラーネットワークを通じて、農家に最新技術を提供し、データ・AI・IoTを活用した効率的・持続可能な農業を推進しています。
自律走行・ロボティクス 完全自律走行トラクター「8R」の量産開始により、AI・機械学習を活用した農業の自動化が現実のものとなっています。労働力不足に悩む農家にとって、自律走行技術は生産性向上の鍵となります。
電動化・脱炭素 電動・ハイブリッドトラクターの開発を進め、サステナビリティ投資に注力しています。2050年までに世界人口100億人突破で食料生産50%増が必要とされる中、環境負荷を抑えた農業機械の需要が高まっています。
(3) 投資家の関心・懸念点
投資家の関心 長期的な農業・建設市場の見通しは前向きです。2050年までに世界人口100億人突破で食料生産50%増が必要とされ、精密農業の先行者優位と1,500超のディーラーネットワーク、54年連続配当実績が強みとなっています。アナリストコンセンサスは「中程度の買い」(強い買い10、中程度の買い1、保留9)で、今後数年でEPS成長率14%、売上成長率2.2%と予測されています。
投資家の懸念 2025年第1四半期で売上30%減、純利益50%減の大幅減収減益となりました。2025年通期純利益47.5-55億ドル見込みは2024年から最大22%減少します。高金利・貿易不確実性・商品価格低迷が需要を圧迫しており、トランプ政権による関税政策(4月2日発効の農産物関税、欧州からの報復関税リスク)への懸念が高まっています。Bairdアナリストはバリュエーション懸念で格下げしており、シクリカル銘柄特性で短期的な株価上昇余地が限定的とされています。
2. ディア・アンド・カンパニーの事業内容・成長戦略
(1) 主力事業
ディア・アンド・カンパニーは1837年創設の世界最大農業機械メーカーで、農業機械が売上の3分の2を占めています。主力事業は以下の4つのセグメントです。
1. 大型農業機械 トラクター、コンバイン、ハーベスター、プランターなどの大型農業機械を製造・販売しています。John Deereブランドで世界的に知られ、2023年世界農機具市場1,077億ドルのうち3割のシェアで業界No.1です。
2. 小型農業機械・芝刈り機 小型トラクター、芝刈り機、ユーティリティビークルなど、家庭用・商業用の小型機械を展開しています。アフターマーケット(部品・サービス)が高利益率を誇ります。
3. 建設・林業 建設機械(掘削機、ローダー等)と林業機械を製造・販売しています。キャタピラーとの競合が激しい分野ですが、精密技術とディーラーネットワークで差別化しています。
4. 金融サービス ディア・ファイナンシャル・サービスを通じて、農家や建設業者への融資・リースを提供しています。機械販売と一体化した金融サービスが顧客の設備投資を促進しています。
(2) セクター・業種の説明
セクター: Industrials(資本財) ディアは資本財セクターに属し、農業・建設・林業で使用される機械を製造しています。資本財セクターは景気変動に敏感で、企業・農家の設備投資意欲に業績が左右されます。
業種: Machinery(機械) 機械業種は製造業の中核で、農業機械・建設機械・産業機械を含みます。ディアは農業機械で世界最大のシェアを持ち、技術革新(AI・ロボティクス)でビジネスモデルを変革しています。
(3) ビジネスモデルの特徴
従来モデル: 機械販売 + アフターマーケット 従来は機械本体の販売と、部品・サービス(アフターマーケット)での収益が中心でした。アフターマーケットは高利益率で、長期的な収益源となっています。
新モデル: Solutions as a Service 新たに「使用した技術のみ支払い」モデルを導入し、初期費用を削減しながら最新技術へのアップグレードを可能にしています。サブスクリプション売上を2030年までに50億ドル(売上の10%)に引き上げる目標です。
精密農業プラットフォーム 「農機メーカー」から「ロボティクスとAIカンパニー」へ変貌を遂げています。統合テクノロジースタックで農家の生産システム全体を最適化し、データドリブンな農業を推進しています。
3. 競合との差別化
(1) 主要競合企業
ディア・アンド・カンパニーは農業機械市場で3割のシェアを持つ業界No.1ですが、競合も存在します。
AGCO(米国) マッセイファーガソン、フェント、ヴァルトラなどのブランドで農業機械を展開する米国企業です。世界2位のシェアを持ち、ディアと同様にスマート農業技術に投資しています。
クボタ(日本) 日本最大の農業機械メーカーで、小型トラクターに強みを持ちます。ディーラーネットワークは1,200(ディアは1,500超)で、アジア・欧州市場で存在感を示しています。
CNHインダストリアル(イタリア) Case IH、New Hollandブランドで農業機械を製造する欧州企業です。世界3位のシェアを持ち、欧州市場での競争が激しいです。
キャタピラー(米国) 建設機械分野での主要競合です。農業機械ではディアに劣りますが、建設・林業機械ではシェアを分け合っています。
(2) 競合優位性
1. 約100年の農家との信頼関係 大恐慌・リーマンショック等を乗り越えてきた約100年の農家との信頼関係が競合優位性です。John Deereブランドは世界中で認知されており、ブランドロイヤルティが高いです。
2. 1,500超のディーラーネットワーク 1,500超のディーラーネットワーク(競合クボタは1,200)を構築しており、迅速な部品供給・サービス提供が可能です。農家にとって、ダウンタイム(故障時の停止時間)は大きな損失となるため、ディーラーネットワークの充実が重要です。
3. 精密農業での先行者優位 2017年にBlue River Technology、2023年にSmart Apply、2025年にSenteraを買収し、精密農業での先行者優位を築いています。AI・機械学習で除草剤使用量90%削減、精密薬剤スプレー技術で環境負荷を抑えた農業を実現しています。
4. 完全自律走行トラクター「8R」 完全自律走行トラクター「8R」を量産開始し、労働力不足に悩む農家に新たな選択肢を提供しています。競合も自律走行技術を開発していますが、ディアは量産化で一歩リードしています。
(3) 市場でのポジショニング
世界シェア30%で業界No.1 2023年世界農機具市場1,077億ドルのうち、ディアは3割のシェアで業界No.1です。北米市場で圧倒的なシェアを持ち、欧州・南米・アジアでも存在感を示しています。
プレミアムブランド John Deereブランドはプレミアムブランドとして位置づけられ、高品質・高性能・高価格帯の機械を提供しています。農家は長期的なコスト削減と生産性向上を重視するため、ディアの機械が選ばれています。
テクノロジーリーダー 「農機メーカー」から「テクノロジーカンパニー」へ変貌を遂げており、AI・ロボティクス・IoTで業界をリードしています。Solutions as a Serviceモデルで新たな収益源を開拓し、競合との差別化を図っています。
4. 財務・配当の実績
(1) 売上高・利益の推移
以下は過去5年の売上高・純利益の推移です(単位: 億ドル)。
| 年度 | 売上高 | 純利益 |
|---|---|---|
| 2020年 | 357 | 21.8 |
| 2021年 | 440 | 59.6 |
| 2022年 | 523 | 70.9 |
| 2023年 | 614 | 103 |
| 2024年 | 586 | 70.2 |
※2025年10月時点のデータです。最新情報はDeere & Company公式IRページをご確認ください。 (出典: Deere & Company 10-K 2024, SEC EDGAR)
2024年は減収減益 2024年は売上高586億ドル(1.77%減)、純利益70.2億ドル(約32%減)と減収減益となりました。農機需要低迷による影響が顕著です。
2025年は更なる減益見込み 2025年第1四半期で売上30%減、純利益50%減の大幅減収減益となりました。2025年通期純利益47.5-52.5億ドル見込み(当初47.5-55億ドルから下方修正)で、2024年から最大22%減少する見通しです。高金利・貿易不確実性・商品価格低迷が需要を圧迫しています。
営業利益率は維持 減収にもかかわらず、設備事業の営業利益率12.6%を維持しています。売上総利益率34.8%も維持しており、コスト管理の徹底が功を奏しています。
(2) 配当履歴
54年連続配当実績 ディアは54年連続配当支払い実績を誇り、厳しい市場環境下でも配当を維持しています。投資家にとって、長期的な配当収入が期待できる銘柄です。
配当利回り1-2%台 配当利回りは1-2%台です(2025年10月時点)。株価が52週安値近辺で取引されているため、配当利回りは相対的に高まっています。最新の配当利回りはYahoo FinanceやDeere公式IRページで確認してください。
配当性向は適正範囲 配当性向は利益の一部を配当に回す比率ですが、ディアは適正範囲を維持しています。2025年は減益見込みですが、配当を維持する方針を示しており、投資家の安心材料となっています。
(3) 財務健全性
自己資本比率 ディアは金融サービス部門を持つため、自己資本比率は他の製造業と比較して低めですが、設備事業単体では健全な水準を維持しています。
フリーキャッシュフロー(FCF) フリーキャッシュフロー(営業キャッシュフロー - 設備投資)は、配当・自社株買いの原資となります。2024年はFCFが減少しましたが、今後10年間で200億ドルの米国投資を計画しており、長期的な成長に向けたキャッシュ配分を行っています。
有利子負債 金融サービス部門での融資・リースに伴う有利子負債がありますが、事業の性質上、問題視されていません。設備事業単体では有利子負債は適正範囲です。
5. リスク要因
(1) 事業リスク
農作物価格下落による設備投資減 農作物価格が下落すると、農家の収入が減少し、設備投資意欲が低下します。2025年は商品価格低迷により、農機需要が大幅に減少しています。ディアの業績は農作物価格に大きく依存しており、穀物・大豆などの市況動向に注意が必要です。
労組ストによる生産遅延 2023年に労組ストが発生し、生産遅延が生じました。労働力不足と賃金上昇圧力が高まる中、労使関係の悪化は業績に影響を及ぼすリスクがあります。
サブスク型サービスへの移行リスク Solutions as a Serviceモデルへの移行は、初期費用削減と最新技術へのアップグレードを提供する一方、従来の機械販売モデルからの移行に伴うリスクがあります。農家の受け入れ度合いや、サブスクリプション売上の成長ペースが計画通りに進むかが不透明です。
(2) 市場環境リスク
シクリカル(景気循環)銘柄特性 ディアはシクリカル銘柄であり、景気変動に敏感に反応します。高金利環境下では農家・建設業者の資金調達コストが上昇し、設備投資意欲が低下します。2025年は高金利が需要を圧迫しており、短期的には株価上昇余地が限定的とされています。
為替リスク 米ドル建て株式のため、為替レート(1ドル=140-160円程度で変動)により円換算の配当・株価が大きく影響を受けます。円高局面では円換算の配当・株価が目減りし、円安局面では増加します。
関税政策の影響 トランプ政権による関税政策(4月2日発効の農産物関税)と欧州からの報復関税への懸念が高まっています。関税引き上げは農家の収入減少につながり、設備投資意欲を低下させる可能性があります。
(3) 規制・競争リスク
環境規制の強化 排ガス規制の強化により、電動・ハイブリッド機種の開発コストが増加します。ディアは電動化・脱炭素に投資していますが、規制対応コストが利益率を圧迫するリスクがあります。
競合の技術革新 AGCO、クボタ、CNHインダストリアルも精密農業・自律走行技術に投資しており、競合の技術革新でディアの先行者優位が揺らぐ可能性があります。
Bairdアナリストによる格下げ Bairdアナリストはバリュエーション懸念で格下げしており、短期的な株価上昇余地が限定的とされています。シクリカル銘柄特性で投資難易度が高いとの評価です。
6. まとめ:投資判断のポイント
(1) この銘柄の強み
1. 精密農業での先行者優位と54年連続配当実績 ディアは精密農業(スマート農業)で先行者優位を築き、1,500超のディーラーネットワークと約100年の農家との信頼関係が強みです。54年連続配当実績があり、厳しい市場環境下でも配当を維持しています。
2. 今後10年間で200億ドルの米国投資 2030年までにサブスクリプション売上50億ドル(売上の10%)を目指す成長戦略が明確です。R&D投資22億ドルで自律走行・ロボティクス・AIに集中投資し、「農機メーカー」から「テクノロジーカンパニー」へ変貌を遂げています。
3. 2050年までに食料生産50%増が必要という長期トレンド 2050年までに世界人口100億人突破で食料生産50%増が必要とされ、長期的な農業市場の見通しは前向きです。精密農業・自律走行技術で生産性向上を支援するディアの役割は重要です。
(2) リスク要因(再掲)
1. 短期的な減収減益リスク 2025年第1四半期で売上30%減、純利益50%減の大幅減収減益となりました。2025年通期純利益47.5-52.5億ドル見込みで、2024年から最大22%減少します。高金利・商品価格低迷・関税政策が需要を圧迫しています。
2. シクリカル銘柄特性での景気変動リスク シクリカル銘柄であり、景気・農作物価格・金利に大きく影響されます。短期的には株価上昇余地が限定的とされ、投資難易度が高いです。
(3) 向いている投資家
1. 長期投資家(10年以上) 2050年までに食料生産50%増が必要という長期トレンドを信じ、景気変動に耐えられる長期投資家に向いています。54年連続配当実績があり、配当収入を重視する投資家にも適しています。
2. テクノロジー成長を期待する投資家 「農機メーカー」から「テクノロジーカンパニー」への変貌を評価し、精密農業・自律走行技術の成長を期待する投資家に向いています。サブスクリプション売上の成長ペースに注目してください。
3. 景気変動リスクを許容できる投資家 シクリカル銘柄特性を理解し、短期的な減収減益リスクを許容できる投資家に向いています。株価が52週安値近辺で取引されている現在、長期的な視点でエントリーする選択肢もあります。
免責事項 本記事は情報提供を目的としており、個別銘柄の推奨や投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。最新の財務データはDeere & Company公式IRページ、Yahoo Finance等でご確認ください。米国株配当には米国で10%、日本で20.315%(特定口座源泉徴収)の課税があります。外国税額控除は確定申告が必要です。為替レートの変動により円換算の配当・株価が大きく影響を受けることにご注意ください。
Q: ディア・アンド・カンパニーの配当利回りは?
A: 配当利回りは1-2%台です(2025年10月時点)。54年連続配当実績があり、厳しい市場環境下でも配当を維持しています。株価が52週安値近辺で取引されているため、配当利回りは相対的に高まっています。最新の配当利回りはYahoo FinanceやDeere公式IRページでご確認ください。
Q: ディア・アンド・カンパニーの主な競合は?
A: AGCO、クボタ、CNHインダストリアル、キャタピラー(建設機械部門)などが主な競合です。ディーラーネットワーク1,500超(クボタは1,200)と精密農業での先行者優位が差別化ポイントです。約100年の農家との信頼関係とJohn Deereブランドのロイヤルティが強みです。
Q: ディア・アンド・カンパニーのリスク要因は?
A: 農作物価格下落による農家の設備投資減リスク、関税政策の影響、高金利による資金調達コスト上昇、シクリカル銘柄特性での景気変動リスクなどがあります。2025年第1四半期で売上30%減、純利益50%減の大幅減収減益となり、短期的には厳しい環境が続きます。詳細は本文を参照してください。
Q: ディア・アンド・カンパニーは長期投資に向いている?
A: 2050年までに食料生産50%増が必要という長期トレンドと、54年連続配当実績から、景気変動に耐えられる長期投資家(10年以上)に向いています。短期的には減収減益リスクに注意してください。精密農業・自律走行技術の成長を期待するテクノロジー成長投資家にも適しています。投資判断はご自身で行ってください。
