S&P500

ファクトセット・リサーチ・システムズ (FDS)

FactSet Research Systems Inc

0. この記事でわかること

本記事では、ファクトセット・リサーチ・システムズ(FDS)について以下の情報を提供します:

  • なぜ注目されているのか: 金融データプロバイダーのニッチリーダー、AI駆動型プラットフォームへの転換、サブスクリプション型ビジネスの安定性
  • 事業内容と成長戦略: 金融データ・分析プラットフォーム、顧客数9,000社・21.6万人の投資専門家、AI・ウェルスマネジメント拡大
  • 競合との差別化: ブルームバーグ・Refinitiv等との比較、中堅機関投資家向け価格戦略、顧客維持率95%超
  • 財務・配当の実績: 2025年度売上23億ドル、調整後営業利益率36.3%、連続増配20年以上
  • リスク要因: 2025年Q4でEPS予想未達(株価年初来39.3%下落)、AI投資によるマージン圧力、資産運用・銀行セクターの逆風

1. なぜファクトセット・リサーチ・システムズ(FDS)が注目されているのか

(1) 金融データプロバイダーのニッチリーダー

ファクトセット・リサーチ・システムズは、金融プロフェッショナル向けのデータ・分析プラットフォームを提供するニッチリーダーです。顧客数は9,000社以上、21.6万人以上の投資専門家にサービスを提供しており、機関投資家や企業のIR部門にとって不可欠なツールとなっています。

サブスクリプション型ビジネスモデルを採用しており、年間ASV(Annual Subscription Value: 年間サブスクリプション価値)保持率は95%超と非常に高く、収益の安定性が特徴です。スイッチングコストが高いため、顧客ロイヤルティが強固であり、長期的な収益基盤を構築しています。

(2) AI駆動型プラットフォームへの転換

ファクトセット・リサーチ・システムズは、AI・機械学習への積極投資を推進しており、約250ベーシスポイント(2.5%)を成長投資に充てています。そのうち3分の2をAI、データ、ポートフォリオライフサイクル(PLC)に投資しており、AI駆動型プラットフォームへの転換を加速しています。

AI関連売上の60%が2025年Q4に発生し、AIツールが契約更新の35%に影響を与えています。製品強化により既存製品をより高速化し、データの信頼性を向上させることで、競合優位性を高めています。

(3) 投資家の関心・懸念点

投資家はファクトセット・リサーチ・システムズのディフェンシブ特性とAI戦略に注目していますが、2025年Q4決算でEPS予想を下回ったことが懸念材料となっています。

2025年Q4のEPSは4.05ドル(予想4.13ドル未達)で、株価は年初来39.3%下落し、52週安値288.84ドル付近で推移しています。投資によるマージン圧力と成長鈍化の懸念があり、2026年度のオーガニックASV成長率ガイダンスが約5%と2025年度から減速することが予想されています。

一方で、アナリストのコンセンサスは「Hold(保有)」評価が主流であり、1名が「Strong Buy」、11名が「Hold」、6名が「Strong Sell」となっています。2028年までに売上27億ドル、利益7.307億ドルを目指すには年率5.7%の成長が必要とされており、AI戦略の成功が鍵となります。

2. ファクトセット・リサーチ・システムズの事業内容・成長戦略

(1) 金融データ・分析プラットフォーム事業

ファクトセット・リサーチ・システムズは、金融データ及びソフトウェア会社で、以下のサービスを提供しています:

  • 顧客サポート: 投資専門家向けのカスタマーサポート
  • データ提供: 財務データ、市場データ、企業情報等
  • インデックスサービス: 株式インデックス、ベンチマーク提供
  • ポートフォリオ管理: クラウドベースのポートフォリオ・注文・実行管理システム
  • トランザクションサービス: 取引執行、決済サービス

事業は米国、欧州、アジア太平洋の3セグメントで展開されており、グローバルな顧客基盤を持ちます。

(2) 金融セクターと業種の特徴

ファクトセット・リサーチ・システムズは金融セクター(Financials)の資本市場(Capital Markets)業種に分類されます。このセクターは金融業界の景気変動に業績が連動しますが、サブスクリプション型ビジネスモデルにより収益の安定性が高く、ディフェンシブな特性を持ちます。

顧客維持率95%超という高水準により、景気後退局面でも既存顧客からの収益を維持しやすい構造となっています。

(3) AI投資とウェルスマネジメント拡大

ファクトセット・リサーチ・システムズの成長戦略は、以下の3つの柱で構成されています:

1. AI・機械学習への積極投資

約250ベーシスポイントを成長投資に充て、そのうち3分の2をAI、データ、ポートフォリオライフサイクル(PLC)に投資しています。AIツールが契約更新の35%に影響を与えており、AI戦略が売上を牽引しています。

2. ウェルスマネジメント分野での拡大

ウェルスマネジメント分野を重点化しており、2025年Q4のウェルスオーガニック成長率は10%超を達成しました。大型案件獲得と地理的拡大の機会を追求しており、今後の成長ドライバーとして期待されています。

3. 戦略的買収によるポートフォリオ強化

2010年から積極的なM&A戦略を展開しており、以下の買収を実施しました:

  • LiquidityBook: 2.465億ドルで買収、クラウドベースのポートフォリオ・注文・実行管理システムを強化
  • Irwin: IRプラットフォームを強化、企業のIR部門向けサービスを拡充
  • Thomson Fundamentals、Market Metrics、StreetAccount、Portware: データ・ソフトウェア資産を拡充

3. 競合との差別化

(1) 主要競合企業(ブルームバーグ、Refinitiv)

ファクトセット・リサーチ・システムズの主要競合企業は、金融データプロバイダー業界で以下の企業です:

  • ブルームバーグ(Bloomberg L.P.): 業界最大手、ブルームバーグターミナルで大手機関投資家にサービス提供、高価格帯
  • Refinitiv(LSEG Data & Analytics): ロンドン証券取引所グループ傘下、Eikonプラットフォームで機関投資家向けデータ提供
  • Capital IQ(S&P Global): S&Pグローバル傘下、企業財務データと分析ツールを提供

これらの競合企業と比較して、ファクトセット・リサーチ・システムズは中堅機関投資家向けの価格戦略で差別化しています。

(2) 中堅機関投資家向け価格戦略

ファクトセット・リサーチ・システムズの最大の差別化ポイントは、ブルームバーグより低価格で中堅機関投資家や企業のIR部門をターゲットとしている点です。

ブルームバーグターミナルは月額2,000ドル以上(年間24,000ドル以上)と高価格帯ですが、ファクトセット・リサーチ・システムズはより手頃な価格でサービスを提供しており、中堅機関投資家にとって魅力的な選択肢となっています。

この価格戦略により、ブルームバーグが手薄な中堅市場でシェアを獲得しています。

(3) 高い顧客維持率とスイッチングコスト

ファクトセット・リサーチ・システムズの年間ASV保持率は95%超と非常に高く、顧客ロイヤルティが強固です。この高い顧客維持率は、スイッチングコストの高さに起因しています。

スイッチングコストが高い理由:

  • ワークフロー統合: 投資専門家の日常業務に深く組み込まれており、他のプラットフォームへの移行が困難
  • データの蓄積: 長年にわたる独自データの蓄積があり、移行時にデータ継続性が失われるリスク
  • 学習コスト: 新しいプラットフォームの習得に時間とコストがかかる

このスイッチングコストにより、既存顧客の離脱率が低く抑えられています。

4. 財務・配当の実績

(1) 売上高・利益の推移

2025年度の最新決算では、好調な業績を記録しています:

指標 2025年度 2024年度 特記事項
売上高 23億ドル - -
調整後営業利益率 36.3% - 高収益性を維持
調整後EPS 16.98ドル 16.45ドル +4.6%増
フリーキャッシュフロー 6億ドル超 - 安定的なキャッシュ創出
Q4オーガニックASV 8,180万ドル - 過去最高記録、前四半期比5.7%加速

顧客数は9,000社に成長(前年比約10%増)しており、顧客基盤の拡大が続いています。

※2025年10月時点のデータです。最新情報はFactSet Research Systems Inc公式IRページをご確認ください。 (出典: FactSet Research Systems Inc Q4 2025 Earnings, SEC EDGAR)

(2) 配当履歴と連続増配

ファクトセット・リサーチ・システムズは連続増配年数20年以上の実績を持ち、配当貴族候補として注目されています:

  • 連続増配年数: 20年以上
  • 配当貴族候補: S&P 500構成銘柄で25年以上連続増配すると配当貴族に認定される
  • 配当原資: 年間6億ドル超のフリーキャッシュフローが配当支払いを支える

配当利回りは市場価格により変動しますが、安定配当を重視する投資家に適した銘柄です。

(3) 財務健全性

ファクトセット・リサーチ・システムズは財務健全性が高く、成長投資と株主還元のバランスを維持しています:

  • 調整後営業利益率: 36.3%(2025年度)の高収益性
  • フリーキャッシュフロー: 年間6億ドル超を安定的に創出
  • 投資計画: 約250ベーシスポイントを成長投資に充当、そのうち3分の2をAI、データ、PLCに投資

この財務健全性により、AI投資を加速させつつ株主還元も継続できる体質を構築しています。

5. リスク要因

(1) EPS未達と株価下落

ファクトセット・リサーチ・システムズの最大のリスクは、2025年Q4決算でEPS予想を下回ったことです。EPSは4.05ドル(予想4.13ドル未達)で、収益成長ペースへの懸念が高まりました。

株価は年初来39.3%下落し、52週安値288.84ドル付近で推移しています。投資家は短期的な業績圧力と成長鈍化を懸念しており、株価回復には時間がかかる見通しです。

(2) 投資によるマージン圧力

AI・機械学習への積極投資により、マージン圧力が高まっています。約250ベーシスポイント(2.5%)を成長投資に充てており、短期的には営業利益率の低下リスクがあります。

AI投資の60%が2025年Q4に集中したことで、Q4のマージンが圧迫されました。技術コストの進化が不透明であり、AI投資が収益に結びつくまでには時間がかかる可能性があります。

(3) 資産運用・銀行セクターの逆風

資産運用・銀行セクターの逆風が顧客基盤に影響を及ぼすリスクがあります。金融業界の景気変動により、顧客企業のコスト削減圧力が高まった場合、サブスクリプション契約の更新率が低下する可能性があります。

さらに、長期化する販売サイクル、CPI(消費者物価指数)による価格上昇の鈍化も課題となっており、2026年度のオーガニックASV成長率ガイダンスが約5%と2025年度から減速する見込みです。

6. まとめ:投資判断のポイント

(1) ファクトセット・リサーチ・システムズの強み

ファクトセット・リサーチ・システムズの主な強みは以下の3点です:

  • サブスクリプション型ビジネスの安定性: 顧客維持率95%超、年間6億ドル超のフリーキャッシュフロー
  • AI駆動型プラットフォームへの転換: AI投資250ベーシスポイント、AIツールが契約更新の35%に影響
  • 連続増配の実績: 連続増配20年以上、配当貴族候補、調整後営業利益率36.3%

(2) リスク要因(再掲)

一方で、以下の2つのリスク要因に注意が必要です:

  • EPS未達と株価下落: 2025年Q4でEPS予想未達、株価年初来39.3%下落
  • AI投資によるマージン圧力: 約250ベーシスポイントの投資、技術コストの不透明性

(3) 向いている投資家

ファクトセット・リサーチ・システムズは以下のような投資家に向いています:

  • ディフェンシブ成長株を求める投資家: サブスクリプション型ビジネスで収益が安定、顧客維持率95%超
  • AI戦略に期待する投資家: AI・機械学習への積極投資、ウェルスマネジメント拡大
  • 配当重視の投資家: 連続増配20年以上、配当貴族候補、年間6億ドル超のフリーキャッシュフロー

※本記事は情報提供を目的としており、個別銘柄の推奨ではありません。投資判断は自己責任で行ってください。

Q: ファクトセット・リサーチ・システムズの配当利回りは?

A: ファクトセット・リサーチ・システムズは連続増配年数20年以上の実績を持ち、配当貴族候補として注目されています。調整後EPS 16.98ドル(2025年度)、年間6億ドル超のフリーキャッシュフローを維持しており、安定配当を重視する投資家に適しています。配当利回りは市場価格により変動しますので、最新の配当利回りは証券会社の銘柄情報でご確認ください。

Q: ファクトセット・リサーチ・システムズの主な競合は?

A: ブルームバーグ(業界最大手、高価格帯)、Refinitiv(ロンドン証券取引所グループ傘下)、Capital IQ(S&Pグローバル傘下)が主要競合です。ファクトセット・リサーチ・システムズはブルームバーグより低価格で中堅機関投資家向けに差別化しており、顧客維持率95%超の強固な顧客基盤を持ちます。

Q: ファクトセット・リサーチ・システムズのリスク要因は?

A: 2025年Q4でEPS予想未達(実績4.05ドル vs 予想4.13ドル)により株価年初来39.3%下落、AI投資によるマージン圧力(約250ベーシスポイント投資)、資産運用・銀行セクターの逆風が主なリスクです。2026年度のオーガニックASV成長率ガイダンスが約5%と減速見込みです。詳細は本文「5. リスク要因」セクションを参照してください。

Q: ファクトセット・リサーチ・システムズは長期投資に向いている?

A: サブスクリプション型ビジネスで収益が安定し、顧客維持率95%超とディフェンシブ特性があります。AI戦略(AI投資250ベーシスポイント、AIツールが契約更新の35%に影響)と高収益性(調整後営業利益率36.3%)を重視する投資家に向いていますが、成長鈍化(2026年度ASV成長率5%見込み)には注意が必要です。投資判断はご自身の投資方針とリスク許容度を踏まえて行ってください。

よくある質問

Q1ファクトセット・リサーチ・システムズの配当利回りは?

A1ファクトセット・リサーチ・システムズは連続増配年数20年以上の実績を持ち、配当貴族候補として注目されています。調整後EPS 16.98ドル(2025年度)、年間6億ドル超のフリーキャッシュフローを維持しており、安定配当を重視する投資家に適しています。配当利回りは市場価格により変動しますので、最新の配当利回りは証券会社の銘柄情報でご確認ください。

Q2ファクトセット・リサーチ・システムズの主な競合は?

A2ブルームバーグ(業界最大手、高価格帯)、Refinitiv(ロンドン証券取引所グループ傘下)、Capital IQ(S&Pグローバル傘下)が主要競合です。ファクトセット・リサーチ・システムズはブルームバーグより低価格で中堅機関投資家向けに差別化しており、顧客維持率95%超の強固な顧客基盤を持ちます。

Q3ファクトセット・リサーチ・システムズのリスク要因は?

A32025年Q4でEPS予想未達(実績4.05ドル vs 予想4.13ドル)により株価年初来39.3%下落、AI投資によるマージン圧力(約250ベーシスポイント投資)、資産運用・銀行セクターの逆風が主なリスクです。2026年度のオーガニックASV成長率ガイダンスが約5%と減速見込みです。詳細は本文「5. リスク要因」セクションを参照してください。

Q4ファクトセット・リサーチ・システムズは長期投資に向いている?

A4サブスクリプション型ビジネスで収益が安定し、顧客維持率95%超とディフェンシブ特性があります。AI戦略(AI投資250ベーシスポイント、AIツールが契約更新の35%に影響)と高収益性(調整後営業利益率36.3%)を重視する投資家に向いていますが、成長鈍化(2026年度ASV成長率5%見込み)には注意が必要です。投資判断はご自身の投資方針とリスク許容度を踏まえて行ってください。