0. この記事でわかること
本記事では、MSCI(MSCI)について以下の情報を提供します:
- なぜ注目されているのか: 世界最大級の株価指数プロバイダーとして、インデックスファンド・ETFの拡大に伴う継続的な収益成長が期待されています。2025年Q2には売上高7.73億ドル(前年比9%増)を達成し、株式ETFのAUM(運用資産残高)が2兆ドルを突破しました。
- 事業内容と成長戦略: 指数ライセンス収入(約60%)を主力に、分析ツール(約30%)、ESG評価(約10%)を展開。気候分析(前年比20%成長)、債券(15%成長)、富裕層向けソリューション(17%成長)の3領域に注力しています。
- 競合との差別化: S&Pダウ・ジョーンズ・インデックス、FTSEラッセルと競合しながらも、MSCI指数に連動する運用資産が16.5兆ドル超という規模と、再発収益が全体の96%を占める安定したビジネスモデルが強みです。
- 財務・配当の実績: 2024年通期でオーガニック売上成長率約10%、調整後EPS 12.4%増を達成。配当利回りは比較的低めですが、増配実績があります。
- リスク要因: ESG・気候事業が政治的論争の対象となるリスク、中国株インデックス組入れに対する米国議会の懸念、市場変動による資産ベース手数料の減少が挙げられます。
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1. なぜMSCI(MSCI)が注目されているのか
(1) 成長戦略の3つのポイント
MSCIは、世界最大級の株価指数・ESG評価プロバイダーとして、以下の3つの領域に注力しています:
気候分析・債券・富裕層向けソリューション:コア事業の株式・債券インデックス(24万種類以上)に加え、気候分析(前年比20%成長)、債券(15%成長)、富裕層向けソリューション(17%成長)の3領域で高成長を実現しています。
プライベート市場ソリューションの拡大:2025年Q2で前年比13%成長を記録。不動産・インフラ分析により高成長・高マージン領域を開拓しています。2023年にはBurgiss Group(プライベート資産データ)を6.97億ドルで買収し、プライベート市場分析の強化を進めました。
戦略的買収による事業拡大:2019年にCarbon Delta(気候変動分析)、2021年にReal Capital Analyticsを買収。これにより、ESG・気候ソリューションのサブスクリプション収益は前年比21%、資産ベース手数料は27%成長しています。
(2) 注目テーマ(ESG・プライベート資産・ETFインデックス)
投資家が注目するテーマは以下の3つです:
- ESG・気候ソリューション:サブスクリプション収益が前年比21%成長し、ランレート(年間経常収益の見込み額)は1.43億ドルに達しました。機関投資家のESG投資拡大が追い風となっています。
- プライベート資産・商業用不動産分析:従来の株式・債券に加え、プライベート資産分析の需要が高まっています。
- ETFインデックス:MSCI指数に連動する株式ETFのAUMが2兆ドルを突破。全体で6兆ドルの運用資産がMSCI指数を活用しています。インデックス投資の普及に伴い、ライセンス収入が継続的に増加する見込みです。
(3) 投資家の関心・懸念点
アナリストは「強気買い」評価で平均目標株価642.89ドル(現在値から17.6%上昇)を設定しています(2025年10月時点)。
一方で、以下の懸念も存在します:
- 売上成長率の鈍化:2025年Q2の売上成長率7.7%が期待を下回り、決算発表後に株価が8.1%下落しました。
- ESG事業の政治的論争:ESG・気候事業が政治的な論争の対象となり、企業や投資家との紛争、規制当局の注目を集める可能性があります。
- 中国株組入れへの懸念:Marco Rubio上院議員が国家安全保障上のリスクを指摘し、ウイグル族の強制労働・監視に関与する企業13社がMSCI指数に含まれているとの批判が出ています。
2. MSCIの事業内容・成長戦略
(1) 主力事業(指数ライセンス・分析ツール・ESG評価)
MSCIの事業は大きく3つに分かれます:
指数ライセンス(約60%):ETFやインデックスファンドに対し、MSCI指数のライセンスを供与し、運用資産額の0.02~0.04%の手数料を受け取ります。2025年時点でMSCI指数に基づく運用資産が16.5兆米ドル超に達しています。
分析ツール(約30%):機関投資家向けにリスク管理・ポートフォリオ分析ツールを提供。サブスクリプションモデルで安定収益を確保しています。
ESG評価(約10%):企業のESG(環境・社会・ガバナンス)評価を提供。気候変動分析、ESGレーティングなどが含まれます。
(2) セクター・業種の説明
MSCIは**金融セクター(Financials)の資本市場業(Capital Markets)**に分類されます。株価指数の算出・提供という独自のビジネスモデルにより、証券会社や資産運用会社とは異なる収益構造を持ちます。
(3) ビジネスモデルの特徴
MSCIの最大の特徴は、再発収益が全体の96%を占める安定したビジネスモデルです:
- サブスクリプションモデル:顧客(ETF、インデックスファンド、機関投資家)との長期契約により、継続的な収益を確保。
- 資産ベース手数料(ABF):ETF・インデックスファンドの運用資産額に応じて手数料が発生するため、市場の成長と共に収益が拡大します。
- 高利益率:調整後EBITDA利益率が約60%(2024年)と、非常に高い収益性を誇ります。
長期的には低い2桁台の売上成長率と調整後EBITDA利益率50%台後半を目標としています。
3. 競合との差別化
(1) 主要競合企業
MSCIの主要競合企業は以下の3社です:
- S&Pダウ・ジョーンズ・インデックス:S&P 500指数など米国市場で強い影響力を持つ。
- FTSEラッセル:英国拠点で、FTSE 100指数などを提供。
- ブルームバーグ:金融データ端末を中心に、インデックス事業も展開。
(2) 競合優位性(高利益率・サブスクリプションモデル)
MSCIの競合優位性は以下の点にあります:
- 圧倒的な規模:MSCI指数に連動する運用資産が16.5兆ドル超。世界の機関投資家が広く利用しています。
- 高利益率のビジネスモデル:調整後EBITDA利益率が約60%と、競合他社と比較して非常に高い収益性を実現。
- 再発収益の安定性:サブスクリプションモデルにより、収益の96%が再発収益。景気変動の影響を受けにくい構造です。
(3) 市場でのポジショニング
MSCIは、世界の投資家にとって不可欠なベンチマーク指数を提供する企業として位置づけられています。特に新興国株式インデックス(MSCI Emerging Markets Index)では、中国・インド・台湾などの組入れ銘柄が投資家の注目を集めます。
一方で、日本株の存在感低下(インデックス銘柄数減少傾向)が指摘されており、日本の投資家にとっては複雑な感情を抱く側面もあります。
4. 財務・配当の実績
(1) 売上高・利益の推移
MSCIの過去5年の財務実績は以下の通りです(単位:百万ドル):
年度 | 売上高 | 調整後EBITDA | 調整後EPS | オーガニック成長率 |
---|---|---|---|---|
2020 | 1,649 | 962 | 7.84 | — |
2021 | 1,968 | 1,203 | 9.46 | 約11% |
2022 | 2,199 | 1,363 | 10.58 | 約8% |
2023 | 2,406 | 1,485 | 11.32 | 約7% |
2024 | 2,642 | 1,581 | 12.72 | 約10% |
(出典: MSCI 10-K 2024, SEC EDGAR)
2024年通期では、オーガニック売上成長率約10%を達成。調整後EPS 12.4%増、フリーキャッシュフロー21%増と、安定した成長を続けています。
2025年Q2単体では、売上高7.73億ドル(前年比9%増)、調整後EPS 4.17ドルと予想を上回る結果となりました。
(2) 配当履歴
MSCIの配当利回りは比較的低めですが、増配実績があります(2025年10月時点):
- 配当利回り:約1.0~1.2%(株価水準により変動)
- 増配実績:過去5年で年平均約10%の増配を実施
- 配当性向:約30~40%(利益の一部を配当、残りを事業成長や自社株買いに充当)
配当利回りは低めですが、株価上昇による値上がり益(キャピタルゲイン)を狙う投資家に適しています。
(3) 財務健全性
MSCIの財務健全性は以下の通りです:
- 自己資本比率:約30~35%(金融サービス企業としては標準的な水準)
- フリーキャッシュフロー:2024年通期で21%増加。事業活動から安定的にキャッシュを創出しています。
- 有利子負債:M&A(企業買収)による負債増加がありますが、高収益事業により返済能力は十分です。
※2025年10月時点のデータです。最新情報はMSCI Inc公式IRページをご確認ください。
5. リスク要因
(1) 事業リスク(市場変動・競合)
MSCIの事業リスクとして、以下が挙げられます:
- 市場変動の影響:資産ベース手数料は運用資産額に連動するため、株式市場の下落時には収益が減少します。
- 競合との価格競争:S&P、FTSEなどとの競争が激化し、手数料引き下げ圧力が強まる可能性があります。
- インデックス事業の成熟化:主力の株式インデックスが成熟市場に入り、成長率が鈍化する懸念があります。
(2) 市場環境リスク(ETF資産残高の変動)
ETF・インデックスファンドの資産残高が減少すると、ライセンス収入が減少します:
- 景気後退:機関投資家の運用資産が減少し、資産ベース手数料が減少。
- 金利上昇:債券市場への資金シフトにより、株式ETFの資産残高が減少する可能性。
- 為替リスク:売上の大部分が米ドル建てですが、日本の投資家にとっては円高時に円換算の株価・配当が減少します。
(3) 規制・競争リスク(ESG論争・中国株組入れ懸念)
ESG・気候事業が政治的論争の対象となるリスクがあります:
- ESG論争:ESG投資に対する政治的批判が強まると、ESG評価事業の成長が鈍化する可能性があります。企業や投資家との紛争、規制当局の注目を集める可能性もあります。
- 中国株組入れ懸念:Marco Rubio上院議員が国家安全保障上のリスクを指摘し、MSCI指数から中国株を除外すべきとの声が出ています。ウイグル族の強制労働・監視に関与する企業13社がMSCI指数に含まれているとの批判もあります。
- 規制の強化:金融サービス業に対する規制が強化されると、コンプライアンスコストが増加する可能性があります。
6. まとめ:投資判断のポイント
(1) この銘柄の強み
MSCIの強みは以下の3点です:
- 安定した再発収益モデル:再発収益が全体の96%を占め、景気変動の影響を受けにくい。
- 高利益率のビジネス:調整後EBITDA利益率が約60%と、非常に高い収益性を誇る。
- インデックス投資の拡大トレンド:ETF・インデックスファンドの普及に伴い、MSCI指数に連動する運用資産が16.5兆ドル超に達しており、今後も成長が期待される。
(2) リスク要因(再掲・要約)
一方で、以下のリスクに注意が必要です:
- 市場変動による収益減少:資産ベース手数料は市場の下落時に減少する。
- ESG・中国株組入れに関する論争:政治的批判がESG事業の成長を鈍化させる可能性がある。
(3) 向いている投資家のタイプ
MSCIは以下のような投資家に向いています:
- インデックス投資の普及トレンドを捉えたい投資家:ETF・インデックスファンドの拡大に伴う成長を期待する方。
- 高利益率のビジネスモデルを評価する投資家:サブスクリプションモデルと資産ベース手数料による安定収益を重視する方。
- 長期的な成長を狙う投資家:配当利回りは低めですが、株価上昇による値上がり益を狙う方。
免責事項:本記事は情報提供を目的としており、個別銘柄の推奨ではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。最新の財務データ・リスク情報はMSCI Inc公式IRページおよびSEC EDGARでご確認ください。
Q: MSCIの配当利回りは?
A: 約1.0~1.2%です(2025年10月時点、株価水準により変動)。配当利回りは比較的低めですが、過去5年で年平均約10%の増配実績があります。配当性向は約30~40%で、利益の一部を配当に充て、残りを事業成長や自社株買いに充当しています。配当利回りは低めですが、株価上昇による値上がり益(キャピタルゲイン)を狙う投資家に適しています。
Q: MSCIの主な競合は?
A: S&Pダウ・ジョーンズ・インデックス、FTSEラッセル、ブルームバーグなどが主要競合です。MSCI指数に連動する運用資産が16.5兆ドル超という規模と、再発収益が全体の96%を占める安定したビジネスモデルが差別化ポイントです。調整後EBITDA利益率が約60%と、競合他社と比較して非常に高い収益性を実現しています。
Q: MSCIのリスク要因は?
A: 市場変動による資産ベース手数料の減少、ESG事業の政治的論争、中国株組入れに関する米国議会の懸念があります。ESG・気候事業が政治的な論争の対象となり、企業や投資家との紛争、規制当局の注目を集める可能性があります。また、Marco Rubio上院議員が国家安全保障上のリスクを指摘し、MSCI指数から中国株を除外すべきとの声も出ています。詳細は本文の「5. リスク要因」を参照してください。
Q: MSCIは長期投資に向いている?
A: インデックス投資の普及トレンドを捉えたい投資家、高利益率のビジネスモデルを評価する投資家、長期的な成長を狙う投資家に向いています。再発収益が全体の96%を占める安定したビジネスモデルと、調整後EBITDA利益率が約60%という高収益性が魅力です。ただし、配当利回りは低めのため、配当収入を重視する投資家には向いていません。投資判断はご自身でお願いします。