0. この記事でわかること
本記事では、オン・セミコンダクター(ON)について以下の情報を提供します:
- なぜ注目されているのか: EV・ADAS向けSiCパワー半導体、車載イメージセンサー世界最大手として中国BEV市場で約50%のシェアを獲得見通し、AIデータセンター向け売上が前年同期比ほぼ倍増
- 事業内容と成長戦略: インテリジェント・パワー(SiC)とインテリジェント・センシング(車載イメージセンサー)の2事業に集中、ハイブリッド製造戦略で柔軟な生産能力調整を実現
- 競合との差別化: Infineon、STMicroelectronics、ロームとの競争で、車載イメージセンサー世界最大手、パワー半導体世界第2位のポジションを確立
- 財務・配当の実績: 2024年に売上14%減・利益23%減を記録し、9拠点統合・従業員約1,000人削減を実施。現在無配当だが、業績回復後の復配可能性を検討
- リスク要因: EV・産業市場の減速、Allegro買収提案の失敗と株価3年ぶり安値、米国自動車関税の影響、北米・欧州需要低迷の継続
1. なぜオン・セミコンダクター(ON)が注目されているのか
(1) 成長戦略の3つのポイント
オン・セミコンダクターは、2021年にCEOに就任したハッサーン・エルコーリー氏の下で、以下3つの成長戦略を推進しています:
① 自動車・産業市場への集中戦略
EV・ADAS(先進運転支援システム)・産業自動化・再生可能エネルギーなど高成長分野にフォーカスする方針を表明し、株価評価が飛躍的に向上しました。従来のコンシューマー市場から撤退し、利益率の高い車載・産業向けに経営資源を集中しています。
② 次世代技術への投資で市場リーダーシップ加速
インテリジェント・パワー(SiC: シリコンカーバイド)とインテリジェント・センシング(車載イメージセンサー世界最大手)に注力しています。中国BEV市場では、2025年末までにSiC市場シェアを約50%獲得する見通しです。SiCは従来のシリコンより高効率・高耐圧で、EV・再生可能エネルギーに最適な次世代パワー半導体材料として注目されています。
③ ハイブリッド製造戦略とFab Right構想
垂直統合からハイブリッド製造へ移行し、需要に応じて柔軟に生産能力を調整しています。2024年に9拠点統合・従業員約1,000人削減を発表し、2025年の設備投資は売上の約5%に抑制する方針です。
(2) 注目テーマ(EV・ADAS、SiCパワー半導体、AIデータセンター)
投資家が注目する主要テーマは以下の通りです:
- EV(電気自動車)・ADAS向け半導体: 車載イメージセンサー世界最大手として、自動運転技術の普及に伴う需要拡大を取り込む
- SiC(シリコンカーバイド)パワー半導体: EVのインバーター、充電インフラ、再生可能エネルギーのパワーコンディショナーなど高成長市場に供給
- AIデータセンター向け電源ソリューション: 2025年Q2にAIデータセンター向け売上が前年同期比でほぼ倍増し、新たな成長ドライバーとして期待
(3) 投資家の関心・懸念点
関心点:
- 中国市場でのEV新規立ち上げとBEV・PHEV両プラットフォームでの強い需要(2025年Q2に中国売上が前四半期比23%増)
- AIデータセンター向け売上の急成長(前年同期比ほぼ倍増)
- アナリストコンセンサス「適度な買い」(買い11、保留14、売り0)で、平均目標株価57.22ドル
- EPS年率40.3%成長、売上年率5.4%成長の予想(米国市場平均を上回るEPS成長率)
懸念点:
- 2024年に売上14%減、利益23%減を記録し、北米・欧州での需要低迷が継続
- 2025年3月のAllegro買収提案(69億ドル全額現金)が拒否され、株価が3年ぶりの安値まで5%超下落
- アナリストは金利負担による収益性への懸念を表明
- 米国の自動車関税による影響への不透明感
2. オン・セミコンダクターの事業内容・成長戦略
(1) 主力事業(インテリジェント・パワー、インテリジェント・センシング)
オン・セミコンダクターは、以下2つの事業セグメントに経営資源を集中しています:
① インテリジェント・パワー(Intelligent Power)
SiC(シリコンカーバイド)、MOSFET、IGBTなどのパワー半導体を提供し、電力変換・制御を高効率化します。主な用途は以下の通りです:
- EV向けインバーター(モーター駆動制御)
- 車載充電器(オンボードチャージャー)
- 再生可能エネルギーのパワーコンディショナー
- 産業オートメーション(工場設備の電力制御)
② インテリジェント・センシング(Intelligent Sensing)
車載イメージセンサーで世界最大のシェアを持ち、以下の用途で採用されています:
- ADAS(先進運転支援システム)向けカメラ
- 自動運転レベル2~4の周辺監視カメラ
- 車内モニタリング(ドライバー監視、乗員検知)
- スマートフォンカメラ(一部製品)
(2) セクター・業種の説明(情報技術・半導体)
オン・セミコンダクターは、情報技術(Information Technology)セクターの半導体・半導体装置(Semiconductors & Semiconductor Equipment)業種に属します。半導体業界は景気変動の影響を受けやすく、マクロ経済悪化時には設備投資が減少するリスクがあります。
(3) ビジネスモデルの特徴(車載・産業向け特化、SiC技術)
オン・セミコンダクターのビジネスモデルには、以下の特徴があります:
車載・産業向け特化:
従来のコンシューマー市場(スマートフォン、家電等)から撤退し、利益率の高い車載・産業向けに経営資源を集中しています。これにより、景気変動に左右されにくい安定収益基盤を構築しつつあります。
SiC技術の優位性:
SiCは従来のシリコンより高効率・高耐圧で、EV・再生可能エネルギーに最適です。中国BEV市場では、2025年末までにSiC市場シェアを約50%獲得する見通しで、競合他社を大きく引き離しています。
ハイブリッド製造戦略:
垂直統合(自社工場での一貫生産)からハイブリッド製造(自社工場+外部委託)へ移行し、需要に応じて柔軟に生産能力を調整しています。2025年の設備投資は売上の約5%に抑制し、キャッシュフローを重視した経営を推進しています。
※2025年10月時点のデータです。最新情報はON Semiconductor Corporation公式IRページをご確認ください。
(出典: ON Semiconductor Corporation 10-K 2024, SEC EDGAR)
3. 競合との差別化
(1) 主要競合企業(Infineon、STMicroelectronics、ローム)
オン・セミコンダクターの主要競合企業は以下の通りです:
- Infineon Technologies(ドイツ): パワー半導体世界最大手。車載・産業・IoT分野で強み
- STMicroelectronics(スイス): 欧州大手半導体メーカー。車載・産業・コンシューマー分野で多角展開
- ローム(日本、証券コード6963): SiC・パワー半導体で世界トップクラス。日本市場で強固な地盤
(2) 競合優位性(車載イメージセンサー世界最大手、中国BEV市場シェア)
オン・セミコンダクターの競合優位性は以下の通りです:
車載イメージセンサー世界最大手:
車載カメラ市場でトップシェアを持ち、ADAS・自動運転の普及に伴う需要拡大を取り込んでいます。競合のソニー、サムスンは主にスマートフォン向けで、車載向けではONが優位です。
中国BEV市場でのSiCシェア約50%:
中国は世界最大のEV市場であり、BEV・PHEV両プラットフォームでONのSiC製品が幅広く採用されています。Infineon、STM、ロームとの競争で、中国市場ではONが圧倒的なシェアを獲得しています。
AIデータセンター向け電源ソリューション:
2025年Q2にAIデータセンター向け売上が前年同期比でほぼ倍増しました。AI・機械学習の計算負荷増大に伴い、高効率電源ソリューションの需要が急拡大しており、ONの技術優位性が評価されています。
(3) 市場でのポジショニング(パワー半導体世界第2位)
オン・セミコンダクターは、パワー半導体市場で世界第2位のポジションを確立しています。Infineonが首位、ONが第2位、STM・ロームが第3位グループという構図です。車載イメージセンサーでは世界最大手であり、2つの主力事業で高いシェアを維持しています。
4. 財務・配当の実績
(1) 売上高・利益の推移(2024年売上14%減、リストラ実施)
2024年、オン・セミコンダクターは売上14%減、利益23%減を記録しました。北米・欧州でのEV・産業市場の需要低迷が主因です。以下は過去の主要財務データです:
| 年度 | 売上(億ドル) | 営業利益率 | 調整後粗利率 |
|---|---|---|---|
| 2024 | 約63.5 | - | - |
| 2025 Q2 | 14.7(四半期) | - | 37.6% |
2024年にリストラを実施し、9拠点統合・従業員約1,000人削減を発表しました。2025年の設備投資は売上の約5%に抑制し、キャッシュフローを重視した経営に転換しています。
2025年Q3のガイダンスは、売上14.65億~15.65億ドル、調整後EPS 0.54~0.64ドルと予想されています。アナリストは、EPS年率40.3%成長、売上年率5.4%成長を予想しており、米国市場平均を上回るEPS成長率が期待されています。
※2025年10月時点のデータです。最新情報はON Semiconductor Corporation公式IRページをご確認ください。
(出典: ON Semiconductor Corporation Q2 2025 Earnings Report, Investor Relations)
(2) 配当履歴(現在無配当、復配の可能性を検討)
オン・セミコンダクターは現在無配当です。過去には配当を実施していましたが、事業投資と財務体質強化を優先しています。業績回復の進展に伴い、復配の可能性が検討される見通しです。配当重視の投資家には不向きですが、キャピタルゲイン(株価上昇)を狙う投資家には選択肢となります。
(3) 財務健全性(ROE 3年後に20.7%見通し)
アナリストは、3年後のROE(自己資本利益率)を20.7%と予想しています。ROE 20%超は高収益企業の目安であり、財務健全性の改善が期待されます。リストラによるコスト削減、高利益率事業への集中、AIデータセンター向け売上の拡大が、ROE改善の主要ドライバーとなります。
5. リスク要因
(1) 事業リスク(EV・産業市場の減速、売上・利益減少)
オン・セミコンダクターは、EV・産業市場の減速により2024年に売上14%減、利益23%減を記録しました。北米・欧州での需要低迷が継続しており、持続的な利益率圧迫と経済逆風が投資家の不安材料となっています。
(2) 市場環境リスク(北米・欧州需要低迷、米国自動車関税の影響)
北米・欧州でのEV・産業市場の需要低迷が継続しています。米国の自動車関税による影響も懸念されており、中国市場での事業拡大が関税政策の変更により影響を受けるリスクがあります。為替レートの変動により、円建てでの投資収益が大きく変動する可能性もあります。
(3) 規制・競争リスク(Allegro買収失敗、米中貿易摩擦)
2025年3月に69億ドル全額現金でのAllegro MicroSystems買収提案を発表しましたが、Allegro取締役会が「不十分」と拒否しました。発表後、ON株価は3年ぶりの安値まで5%超下落し、アナリストは金利負担による収益性への懸念を表明しています。
また、米中貿易摩擦や関税政策の変更が中国市場での事業に影響するリスクがあります。中国はONにとって重要市場であり(2025年Q2に中国売上が前四半期比23%増)、政治・経済情勢の変化が業績に直接影響します。
6. まとめ:投資判断のポイント
(1) この銘柄の強み(SiC技術、車載センサー、AIデータセンター成長)
オン・セミコンダクターの主な強みは以下の通りです:
- SiC技術: 中国BEV市場で約50%のシェアを獲得見通し。EV・再生可能エネルギーの成長を取り込む
- 車載イメージセンサー世界最大手: ADAS・自動運転の普及に伴う需要拡大を取り込む
- AIデータセンター向け売上の急成長: 前年同期比ほぼ倍増し、新たな成長ドライバーとして期待
(2) リスク要因(再掲:市場減速、買収失敗、関税影響)
主なリスク要因は以下の通りです:
- EV・産業市場の減速: 2024年に売上14%減、利益23%減を記録
- Allegro買収提案の失敗: 株価が3年ぶりの安値まで下落、金利負担による収益性への懸念
(3) 向いている投資家(半導体長期成長期待、EV・産業市場回復待機)
オン・セミコンダクターは、以下のような投資家に向いています:
- 半導体セクターの長期成長を期待する投資家: EV・ADAS・AIデータセンター市場の拡大を取り込む
- EV・産業市場の回復を待機する投資家: 短期的には市場減速の影響を受けるが、長期的には成長期待
- キャピタルゲイン(株価上昇)を狙う投資家: 現在無配当のため配当重視の投資家には不向き
一方、以下のような投資家には不向きです:
- 配当重視の投資家: 現在無配当であり、復配の時期も不透明
- 短期的な業績改善を期待する投資家: 北米・欧州需要低迷が継続しており、業績回復には時間がかかる見通し
免責事項: 本記事は情報提供を目的としており、個別銘柄の推奨ではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。最新の財務データ・市場動向は、ON Semiconductor Corporation公式IRページ、SEC EDGAR、各種金融情報サービスでご確認ください。
Q: オン・セミコンダクターの配当利回りは?
A: 現在は無配当です(2025年10月時点)。過去には配当を実施していましたが、事業投資と財務体質強化を優先しています。復配の可能性については、業績回復の進展を見守る必要があります。配当重視の投資家には不向きですが、キャピタルゲイン(株価上昇)を狙う投資家には選択肢となります。
Q: オン・セミコンダクターの主な競合は?
A: Infineon Technologies(ドイツ)、STMicroelectronics(スイス)、ローム(日本、証券コード6963)などのパワー半導体・車載半導体メーカーです。ONは車載イメージセンサー世界最大手、パワー半導体世界第2位の地位を持ちます。中国BEV市場では、SiC市場シェアを年末までに約50%獲得する見通しです。
Q: オン・セミコンダクターのリスク要因は?
A: 主なリスク要因は以下の通りです:
- EV・産業市場の減速: 2024年に売上14%減、利益23%減を記録
- Allegro買収提案の失敗と株価下落: 2025年3月に69億ドルでの買収提案が拒否され、株価が3年ぶりの安値まで5%超下落
- 米国自動車関税の影響: 中国市場での事業拡大が関税政策の変更により影響を受ける可能性
- 高いバリュエーション倍率: アナリストは金利負担による収益性への懸念を表明
詳細は本文のリスク要因セクションを参照してください。
Q: オン・セミコンダクターは長期投資に向いている?
A: SiC技術とEV・産業市場の長期成長を期待する投資家に向いています。車載イメージセンサー世界最大手、パワー半導体世界第2位の地位を持ち、AIデータセンター向け売上も急成長(前年同期比ほぼ倍増)しています。ただし短期的には市場減速の影響を受けており、業績回復を待つ必要があります。無配当のため配当重視の投資家には不向きです。投資判断はご自身の責任で行ってください。
