0. この記事でわかること
本記事では、テキサス・インスツルメンツ(TXN)について以下の情報を提供します:
- なぜ注目されているのか: 600億ドル以上を投資して7つの半導体工場を新設・拡張し、300mmウェハー製造能力への投資により200mmと比べて40%のコスト削減を実現しています。産業・自動車・データセンター市場に注力し、売上の75-80%を占めています
- 事業内容と成長戦略: アナログ半導体と組み込みプロセッサの世界的リーダー。産業機器・自動車・家電など幅広い用途で使われる汎用性の高い半導体に強みがあります
- 競合との差別化: 世界アナログ半導体市場シェア18%で1位。Analog Devices、Infineon、NXP、STMicroelectronicsなどを大きく引き離しています
- 財務・配当の実績: 2025年Q2は売上高44.5億ドル(16%増)、EPS 1.41ドル。22年連続増配の配当貴族銘柄で、安定配当と長期成長を両立しています
- リスク要因: 過剰な設備投資への懸念(Elliott Management指摘)、フリーキャッシュフロー75%減少、受注鈍化により株価が11.4%急落しました
1. なぜテキサス・インスツルメンツ(TXN)が注目されているのか
(1) 成長戦略の3つのポイント
テキサス・インスツルメンツは以下の3つのポイントで投資家の注目を集めています。
第一に、米国史上最大規模の半導体製造投資です。 600億ドル以上を投資し、テキサス州とユタ州に7つの半導体工場を新設・拡張しています。この大規模投資により、長期的な製造能力の拡大と競争力強化を目指しています。
第二に、300mmウェハー製造能力への投資です。 300mmウェハー製造能力への投資により、200mmウェハーと比べて40%のコスト削減を実現しています。この製造コスト優位性が、競合他社との差別化につながっています。
第三に、産業・自動車・データセンター市場への注力です。 これら3市場が売上の75-80%を占め、データセンターは2025年に10億~12億ドル規模に達する見込みです。多様な顧客基盤により、特定市場への依存度を低減しています。
(出典: Texas Instruments plans to invest more than $60 billion, TI Newsroom)
(2) 注目テーマ(産業・自動車向けアナログ半導体・300mmウェハー製造・米国中心の製造戦略)
テキサス・インスツルメンツは以下の注目テーマで投資家の関心を集めています。
産業・自動車向けアナログ半導体: 産業機器・自動車向けのアナログ半導体は、電源管理、信号処理、センサーなど幅広い用途で使用されています。NvidiaやAMDのようなGPU・CPU銘柄と異なり、地味ながら不可欠な分野です。
300mmウェハー製造能力拡大: 300mmウェハー製造能力への投資により、製造コストを40%削減しています。この製造技術の優位性が、長期的な競争力の源泉です。
米国中心の製造戦略(地政学リスク軽減): テキサス州とユタ州を中心に工場を建設し、米国中心の製造戦略を推進しています。これにより、地政学リスク(中国・台湾への依存度)を軽減し、サプライチェーンの安定性を高めています。
(3) 投資家の関心・懸念点
投資家の関心点は、22年連続増配の配当貴族銘柄として安定的な配当成長を継続していることです。また、ROE予想44.8%と高い収益性を維持し、年率13.2%の利益成長と9.1%の売上成長が期待されています。平均目標株価は217.52ドル(現在価格から24.11%上昇)と評価されています。
一方で、懸念点としては、過剰な設備投資への懸念があります。Elliott Managementは、2026・2030年のコンセンサス売上予想を50%上回る生産能力を構築していると指摘しています。また、2022年以降、1株当たりフリーキャッシュフローが75%以上減少しており、配当持続性への懸念があります。さらに、2025年Q2決算では好調な業績にもかかわらず、産業部門の受注鈍化により見通しが弱く、株価が11.4%急落しました。
2. テキサス・インスツルメンツの事業内容・成長戦略
(1) 主力事業(アナログIC・組み込みプロセッサ)
テキサス・インスツルメンツは以下の事業を展開しています。
アナログIC(集積回路): 電圧・電流等の連続信号を処理する半導体です。電源管理、信号処理、センサーなど、産業機器・自動車・家電に不可欠な機能を提供します。2021年のアナログ半導体売上高は141億ドルで世界シェア1位でした。
組み込みプロセッサ: 機器に組み込まれた制御用プロセッサです。自動車、産業機器、データセンターなどで使用され、リアルタイム処理や制御機能を提供します。
その他: DSP(デジタル信号処理)、マイクロコントローラなどを主力製品としています。
(2) セクター・業種の説明(Information Technology - Semiconductors & Semiconductor Equipment)
テキサス・インスツルメンツはInformation Technology(情報技術)セクターのSemiconductors & Semiconductor Equipment(半導体・半導体装置)業種に属しています。
このセクター・業種は景気サイクルの影響を受けやすく、半導体需要は経済成長、設備投資、消費者需要に連動します。ただし、テキサス・インスツルメンツはアナログ半導体に特化しており、NvidiaやAMDのようなGPU・CPU銘柄と異なり、産業機器・自動車・家電など幅広い用途で使われる汎用性の高い半導体を提供しています。
(3) ビジネスモデルの特徴(垂直統合型・フリーキャッシュフロー重視)
テキサス・インスツルメンツのビジネスモデルには以下の特徴があります。
垂直統合型: 設計から製造・流通まで一貫して自社で行う垂直統合型ビジネスモデルです。これにより、品質管理と製造効率を確保し、顧客ニーズに柔軟に対応しています。
フリーキャッシュフロー重視: 1株当たりフリーキャッシュフローを最重要指標とし、長期的な株主価値創造を重視しています。2026年までに1株当たりフリーキャッシュフロー8~9ドルを目標としています。
4つの持続的競争優位性: 製造・技術、幅広い製品ポートフォリオ、市場チャネルのリーチ、多様で長期的なポジションの4つを競争優位性としています。
(出典: Texas Instruments Investor Overview, Official IR)
3. 競合との差別化
(1) 主要競合企業(Analog Devices・Infineon・NXP・STMicroelectronics)
テキサス・インスツルメンツの主要競合企業は以下の通りです。
Analog Devices(アナログ・デバイセズ): アナログ半導体のグローバル企業で、産業・通信・自動車向けに高性能アナログICを提供しています。市場シェアはテキサス・インスツルメンツに次ぐ2位です。
Infineon(インフィニオン): ドイツの半導体企業で、自動車・産業・パワー半導体に強みがあります。特に電動車向けパワー半導体で高いシェアを持っています。
NXP・STMicroelectronics: オランダ・スイスの半導体企業で、自動車・産業向けマイクロコントローラやアナログICを提供しています。
(2) 競合優位性(世界シェア1位・300mm製造能力・幅広い製品ポートフォリオ)
テキサス・インスツルメンツの競合優位性は以下の点にあります。
世界シェア1位: 2021年アナログ半導体売上高141億ドルで世界シェア18%を占め、他社を大きく引き離しています。市場シェア1%回復ごとに成長率が5-6%ポイント上昇すると推定されています。
300mm製造能力: 300mmウェハー製造能力への投資により、200mmと比べて40%のコスト削減を実現しています。この製造コスト優位性が競争力の源泉です。
幅広い製品ポートフォリオ: アナログIC、組み込みプロセッサ、DSP、マイクロコントローラなど、幅広い製品ラインナップを持ち、多様な顧客ニーズに対応しています。
(3) 市場でのポジショニング(アナログ半導体のグローバルリーダー)
テキサス・インスツルメンツはアナログ半導体のグローバルリーダーとして市場で確固たる地位を築いています。アナログ半導体は、NvidiaやAMDのようなGPU・CPU銘柄と異なり、地味ながら産業機器・自動車・家電に不可欠な分野です。
ターゲット市場: 産業・自動車・データセンターが売上の75-80%を占め、多様な顧客基盤を持っています。
競争環境: 世界シェア18%で1位、Analog Devicesが2位ですが、テキサス・インスツルメンツが大きく引き離しています。
4. 財務・配当の実績
(1) 売上高・利益の推移(Q2 2025実績含む)
テキサス・インスツルメンツの財務推移は以下の通りです(※2025年10月時点のデータです)。
2025年Q2の業績:
- 売上高: 44.5億ドル(前年同期比16%増)
- EPS: 1.41ドル(前年1.22ドル、アナリスト予想を0.06ドル上回る)
- 営業利益: 15.6億ドル(売上比35.1%、前年12.5億ドル・32.7%から改善)
長期見通し:
- 年率利益成長: 13.2%
- 年率売上成長: 9.1%
- 2030年売上高目標: 300億~400億ドル
- 2026年フリーキャッシュフロー目標: 1株当たり8~9ドル
2025年Q2決算は好調でしたが、産業部門の受注鈍化により見通しが弱く、株価が11.4%急落しました。長期的には安定成長が期待されています。
(出典: Texas Instruments Reports 16% Revenue Growth in Q2 2025, StockInvest.us)
(2) 配当履歴(22年連続増配・配当貴族)
テキサス・インスツルメンツは22年連続増配の配当貴族銘柄です。
配当の特徴:
- 22年連続増配を達成
- 配当貴族銘柄として認定
- 安定的な配当成長を継続
配当利回りは株価により変動しますが、配当と自社株買いを組み合わせた株主還元を継続しています。最新の配当利回りは証券会社の株価情報や公式IR資料をご確認ください。
(出典: Texas Instruments Official Investor Relations)
(3) 財務健全性(ROE 44.8%予想・フリーキャッシュフロー重視)
テキサス・インスツルメンツの財務健全性は以下の通りです。
収益性: ROE予想44.8%と高い収益性を維持しています。営業利益率35.1%(2025年Q2)と良好な水準です。
フリーキャッシュフロー: 1株当たりフリーキャッシュフローを最重要指標としていますが、2022年以降75%以上減少しており、懸念材料です。2026年までに8~9ドルへの回復を目指しています。
設備投資: 2023年以降の設備投資比率が売上の29-32%に達し、過剰投資の懸念があります。
※2025年10月時点のデータです。最新情報はTexas Instruments公式IRページをご確認ください。 (出典: Texas Instruments 10-K Annual Report, SEC EDGAR)
5. リスク要因
(1) 事業リスク(過剰設備投資懸念・フリーキャッシュフロー75%減少・受注鈍化)
テキサス・インスツルメンツの主な事業リスクは以下の通りです。
過剰設備投資懸念: Elliott Managementは、2026・2030年のコンセンサス売上予想を50%上回る生産能力を構築していると指摘しています。設備投資比率が2023年29%、2024年32%に達し、過剰投資による減価償却負担の増加が懸念されています。
フリーキャッシュフロー75%減少: 2022年以降、1株当たりフリーキャッシュフローが75%以上減少しており、配当持続性への懸念があります。2026年までに8~9ドルへの回復を目指していますが、達成は不確実です。
受注鈍化: 2025年Q2決算では受注率が四半期中に鈍化し、前半から後半にかけて減速しました。循環的回復の短期的兆候は見られるが、持続性は不確実です。
(2) 市場環境リスク(半導体サイクル・産業部門需要変動)
半導体サイクル: 半導体業界は循環性が高く、在庫調整や需要変動の影響を受けやすい特性があります。景気後退期には産業機器・自動車向け需要が減少するリスクがあります。
産業部門需要変動: 産業・自動車・データセンター市場が売上の75-80%を占めており、これらの市場の需要変動が業績に大きく影響します。
為替リスク: 米ドル/円の為替レート変動により、円換算の配当金額や株価が変動します。
(3) 規制・競争リスク(地政学リスク・競争激化)
地政学リスク: 中国・台湾との緊張関係により、サプライチェーンや市場アクセスが制約されるリスクがあります。米国中心の製造戦略により軽減を図っていますが、完全に回避することはできません。
競争激化: Analog Devices、Infineon、NXP、STMicroelectronicsなどとの競争が激化する可能性があります。また、中国企業の台頭により、市場シェアが低下するリスクもあります。
(出典: Investor tells Texas Instruments to stop spending on fabs, The Register)
6. まとめ:投資判断のポイント
(1) この銘柄の強み(世界シェア1位・22年連続増配・300mm製造能力)
テキサス・インスツルメンツの強みは以下の3点です。
第一に、世界シェア1位です。 2021年アナログ半導体売上高141億ドルで世界シェア18%を占め、他社を大きく引き離しています。市場シェア1%回復ごとに成長率が5-6%ポイント上昇すると推定されています。
第二に、22年連続増配の配当貴族銘柄です。 安定的な配当成長を継続しており、配当と自社株買いを組み合わせた株主還元を実施しています。
第三に、300mm製造能力です。 300mmウェハー製造能力への投資により、200mmと比べて40%のコスト削減を実現しています。この製造コスト優位性が長期的な競争力の源泉です。
(2) リスク要因(再掲)
一方で、以下の2点のリスクに注意が必要です。
第一に、過剰設備投資懸念です。 Elliott Managementは、2026・2030年のコンセンサス売上予想を50%上回る生産能力を構築していると指摘しています。設備投資比率が売上の29-32%に達し、減価償却負担の増加が懸念されています。
第二に、フリーキャッシュフロー75%減少です。 2022年以降、1株当たりフリーキャッシュフローが75%以上減少しており、配当持続性への懸念があります。
(3) 向いている投資家(配当重視・半導体セクター長期成長期待・景気サイクル許容)
テキサス・インスツルメンツは以下のタイプの投資家に向いています。
配当重視の投資家: 22年連続増配の配当貴族銘柄として安定的な配当成長を求める投資家に適しています。
半導体セクターの長期成長を期待する投資家: アナログ半導体は地味ながら産業機器・自動車・家電に不可欠な分野で、長期的な成長が期待できます。
景気サイクルを許容できる投資家: 半導体業界は循環性が高く、景気後退期には業績が悪化するリスクがあります。長期投資の視点で景気サイクルを許容できる投資家に向いています。
ただし、過剰設備投資懸念とフリーキャッシュフロー減少が懸念材料です。投資判断はご自身で行ってください。投資の最終決定は自己責任で行い、必要に応じて専門家にご相談ください。
※本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
Q: テキサス・インスツルメンツの配当利回りは?
A: 22年連続増配の配当貴族銘柄です。配当利回りは株価により変動しますが、安定的な配当成長を継続しています。配当と自社株買いを組み合わせた株主還元を実施しており、長期的な配当成長が期待できます。最新の配当利回りと配当履歴は証券会社の株価情報や公式IR資料をご確認ください。
Q: テキサス・インスツルメンツの主な競合は?
A: Analog Devices、Infineon、NXP、STMicroelectronicsなどが主要競合です。世界アナログ半導体市場シェア18%で1位を占め、他社を大きく引き離しています。300mmウェハー製造能力への投資により、200mmと比べて40%のコスト削減を実現しており、この製造コスト優位性が競合との差別化ポイントです。
Q: テキサス・インスツルメンツのリスク要因は?
A: 主なリスク要因は3つです。第一に、過剰設備投資懸念(Elliott Management指摘)で、2026・2030年のコンセンサス売上予想を50%上回る生産能力を構築しています。第二に、2022年以降、1株当たりフリーキャッシュフローが75%以上減少しており、配当持続性への懸念があります。第三に、2025年Q2決算では受注鈍化により見通しが弱く、株価が11.4%急落しました。詳細は本文のリスク要因セクションを参照してください。
Q: テキサス・インスツルメンツは長期投資に向いている?
A: 配当重視・半導体セクターの長期成長を期待し、景気サイクルを許容できる投資家に向いています。22年連続増配の配当貴族銘柄として安定的な配当成長を継続しており、世界シェア1位の競争力を持っています。ただし、過剰設備投資懸念とフリーキャッシュフロー75%減少が懸念材料です。長期的には年率13.2%の利益成長と9.1%の売上成長が期待されています。投資判断はご自身で行ってください。
Q: アナログ半導体とデジタル半導体の違いは?
A: アナログ半導体は電圧・電流等の連続信号を処理し、電源管理・信号処理・センサーに使用されます。デジタル半導体(CPU・GPU等)は0と1のデジタル信号を処理し、演算処理に使用されます。アナログ半導体はNvidiaやAMDのようなGPU・CPU銘柄と異なり地味ですが、産業機器・自動車・家電に不可欠な機能を提供しており、幅広い用途で使われる汎用性の高い半導体です。